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 アロマキャンドルの火が消えた。  これにも彼の名前が刻まれている。  どうせなら捨てる前に使い切ってしまおうとつけっぱなしにしていたせいで、部屋中にこれでもかとベルガモットの香りが漂っている。本当なら半身浴をしながらとか、ゆっくりハーブティーを飲みながらとか、そういったシチュエーションで楽しまなければならないもののはずなのに、バタバタと埃を立てながら動き回っている凪子の傍ら、神経を落ち着かせるはずの香りはむしろ逆効果になっている。  火が消えても、しばらく残り続ける香り。  本棚をひっくり返すと、大量のクリアファイル。  コンビニで800円以上買い物をすれば貰えるもので、700円くらいだと慌ててペットボトルを一本買い足したりして、全種類手に入れようとコンビニをはしごして回った記憶が甦る。クリアファイルの中には、雑誌の切り抜き。紙だと褪せてしまうからいずれ全部スキャンするつもりだったけれど……  クリアファイルごとまとめてダンボールの中。  小さな缶の中には、ガムの包み紙。包み紙に書かれたメッセージは三十種類以上あって、それも全種類集めるために必死だった。  ダンボールのフタを閉める直前、最後にふりかけるようにそれを全部、ぶちまけた。しゃらしゃらしゃら。缶は何かに使えるかと思ったけれど、いややっぱり使わないな、と僅かに空いた隙間にねじこむ。上から押さえつけるように蓋をし、ガムテープで閉じる。恋が終わった。5人組のアイドルグループ、ATARAXIAのファンを、凪子は今、卒業した。
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