交通整理

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交通整理

「あら。上の方から誰か降りてくるわ」 「神様だったりしてね」    数分後。 「いやー、本当に神様だったなんて知りませんでしたよ」  ここは人ごみの中の交差点である。  あまりにも人が多いので、ぼくと美香は前に進めずほとほと困っていた。  すると、上の方からするすると神様が降りてきたということだった。 「だいぶ混雑しているから困っているだろうと思ってね」  神様は人々をお前はあっちえ、あんたはこっちだと交通整理をしてくれている。 「ありがとうございます。でも、何故ぼくたちのために?」 「たまにはいいだろう。どうれ、もういいぞ」  さっきまでの人ごみは、今はすっきりとしていた。  初老のおじさんだった。  カジュアルな服装の神様は普通のおじさんのようにも見えた。   「あの、神様。私は今産婦人科に通っているんですけど、なんだか問題が多い病院でした。医者は人間なら天才じゃなくてもいいって思うんです。なんとかしてくださいませんか?」  妻の美香の言葉に神様はにっこりとして返した。 「それは贅沢だよ。なんたって、人類はそんなに善行をしていないんだし。うーむ、贅沢だ」  美香はかしこまって頭を下げている。 「お願いします。私の通っている病院だけでも」 「仕方ない。じゃあ、君の通う病院だけだぞ。それじゃあ」  そういうと、神様は手を振ってまたするすると上へと戻って行った。 「貴重な体験だったね」 「私、今でも信じてないわ」 「それは信仰心が足りない証拠だよ」
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