3人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
交通整理
「あら。上の方から誰か降りてくるわ」
「神様だったりしてね」
数分後。
「いやー、本当に神様だったなんて知りませんでしたよ」
ここは人ごみの中の交差点である。
あまりにも人が多いので、ぼくと美香は前に進めずほとほと困っていた。
すると、上の方からするすると神様が降りてきたということだった。
「だいぶ混雑しているから困っているだろうと思ってね」
神様は人々をお前はあっちえ、あんたはこっちだと交通整理をしてくれている。
「ありがとうございます。でも、何故ぼくたちのために?」
「たまにはいいだろう。どうれ、もういいぞ」
さっきまでの人ごみは、今はすっきりとしていた。
初老のおじさんだった。
カジュアルな服装の神様は普通のおじさんのようにも見えた。
「あの、神様。私は今産婦人科に通っているんですけど、なんだか問題が多い病院でした。医者は人間なら天才じゃなくてもいいって思うんです。なんとかしてくださいませんか?」
妻の美香の言葉に神様はにっこりとして返した。
「それは贅沢だよ。なんたって、人類はそんなに善行をしていないんだし。うーむ、贅沢だ」
美香はかしこまって頭を下げている。
「お願いします。私の通っている病院だけでも」
「仕方ない。じゃあ、君の通う病院だけだぞ。それじゃあ」
そういうと、神様は手を振ってまたするすると上へと戻って行った。
「貴重な体験だったね」
「私、今でも信じてないわ」
「それは信仰心が足りない証拠だよ」
最初のコメントを投稿しよう!