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「……そ、そ、そっか。うん。なんか勉強になったな。ありがと。あはは。」
つまんねー!とか何言ってんだよ!と笑い飛ばすとかしてもらった方がまだマシなのに、しどろもどろなヒロミさんの顔は真っ赤でこっちまで照れてしまう。
「今から外出て実践する?」
どうにかこの変な空気を変えたくてヒロミさんをからかうと、
「無理無理無理!」
顔の前でブンブンと手を振って否定する。必死過ぎて髪がバサバサと左右に揺れて、整髪料なのかシャンプーなのかどっちかわかんないけど、汗の匂いと混ざってオレの鼻腔を擽って。
・・・なんか、こう。グッとくる。
「それよりさ、ヒロミさん。連絡先交換しない?また飲もうよ。」
「うん!また飲も!」
スマホを取り出して慣れた手つきで操作をし、
「フルフル?QR?どっちで……」
顔を上げると目の前には四角い紙切れ。と、その隅を長く綺麗な指先で摘んでいるヒロミさん。
「あぁっ!そ、そうだよね!何で俺名刺を……そうだよね、ついうっかり……」
今夜のこの出会いも飲みもビジネスの延長線上に位置付けてるってことか。
まぁ、そうだろうな。“なんかいいな”ってこの感覚はオレには普通だけどこの人にとってそれはきっと“有り得ないコト”だろうね。さっきまで彼女がいたんだもん。つまり対象はオンナってこと。
N極とN極がくっ付く世界なんて、こんなノーマルでくそ真面目なリーマンには理解できないよな。
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