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「やっぱ、それもらっていい?」
引っ込めようとした名刺をひょいと目の前で奪われたヒロミさんは、今度は慌ててスマホを取り出した。
「えぇっと、どこをどうするんだっけ……」
「オレの、QR出したから読み取って?ほらココ。」
「あ、うん。サンキュ。こういうの疎くて(笑)」
操作しやすいようにとヒロミさんの近くに置いたスマホの真上でワタワタと不器用に自分のをかざす姿に思わずクスっと声が漏れた。
名刺を頂戴しといて自分のを渡さないのもな、と胸ポケットの名刺入れをまさぐりつつ、テーブルの右端に寄せたヒロミさんの名刺をチラッと見、
……て。
綺麗な二度見をかました。
「有楽町セントラルビルディングぅぅぅ?」
「あ、職場?そうそう。従業員なんかようやく2桁になったばかりなのにね、所在地で会社に箔が付くとか言ってそこにオフィス構えちゃってさ。ま、名前は聞いたことあるかも知れないけど駅からは少し歩くし建物自体は随分年季が入ってるよ。牧野さんは?ペーパーホリックの……本社?支店?ってどこにあるの?」
「本社は大阪……オレは東京支店勤務。」
「あ、そうなんだ。東京支店はここから近い?ごめんね?良く知らなくて。」
「ココ。」
「え?何て?」
「ココ、だよ。ほら。」
そう言って差し出した名刺を恐る恐る受け取るとヒロミさんは大きな目をもっと大きく開いて「そっか!そうだった!」と声を張り上げた。
「なっ、何?」
「そうだよ、そうそう!見た!」
「何、を?」
「社名だよ、社名!エントランスの!」
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