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3章
「なんだこの内装は!?」
着物姿の女性の家に入り、アンたちは両目を大きく開けている。
それは、その家の中がが、彼女たちが知らないもので埋め尽くされていたからだ。
テーブルあるが低く、椅子の代わりに、クッションのようなものが置いてある。
他にも見たことのない家具があり、そして何よりも室内が土足厳禁というのも風変りだった。
「さあ、遠慮などせずに入ってください」
戸惑うアンたちは、靴を脱いで、敷き詰められている変わった緑色の絨毯の感触を確かめていた。
その中で、ルーザーだけが平然と中へ入って行く。
「それは畳というものだ」
彼がそう言うと、着物姿の女性が驚いた顔をした。
彼女が「知っておられるのですか?」と訊くと、ルーザーは頷く。
どうもこの畳と呼ばれる敷物は、彼の故郷のものらしい。
身を固くしたアンたちが座布団と呼ばれるクッションに腰を下ろすと――。
「ワンワン!!!」
突然、獣の鳴き声が聞こえた。
そこには白い犬と黒い犬2匹がいる。
「こらこらリトルたち。お客さんの前ですよ」
着物姿の女性がたしなめると、2匹犬は「くぅ~ん」と鳴いた。
2匹の犬の名は、白いほうが小雪、黒いほうが小鉄と言うようだ。
犬たちは、ニコとルーを見ると、素早い動きで飛びついた。
戸惑う2匹の羊たちの顔をペロペロと舐めながら、まるでボールを転がすように激しくじゃれつく。
「あの犬たちの動き、キレッキレじゃないかッ!?」
アンが声を出して言うと、着物姿の女性は微笑んでいた。
それから彼女は「少々お待ちを」と言うと、奥から食事を運んでくる。
それは、大きな器にスープと太い麺が入ったものだった。
だが、アンもロミーもクロムも、どう食べればいいかわからない。
「ほう、うどんか。では、いただこう」
その横でルーザーが、箸と呼ばれた2本の細く短い棒を持って、ズルズルと器に入ったうどんを啜っていく。
これもルーザーの故郷の食べものか――と思いながら、アンたちも彼のマネして口へと運んだ。
3人とも慣れない箸の使い方に悪戦苦闘しながらも。
「う、うまい!?」
「ホント!! これすっごく美味しいよ!!!」
ロミーとクロムが歓喜の声をあげている。
アンは黙っていたが、その味に舌鼓を打っていた。
……たしかに美味しいけど。
だか、慣れないものに囲まれているせいで落ち着かないな……。
そんなアンたちを見ながら、着物姿の女性は嬉しそうにして部屋から出ると、犬たちとニコとルーにも食事を運んでくる。
そして、2匹の犬と子羊たちはじゃれあいながらうどんを食べていった。
食事を終え、着物姿の女性がカップに注いだ緑茶と呼ばれるものを運んでくると――。
「申し遅れました。私はクリア·ベルサウンドと申します。以後はクリアで構いませんよ」
丁寧に頭を下げ、挨拶をされると、アンも慌てて頭を下げ返す。
それから全員がクリアに名を名乗り、挨拶を済ませた。
知らない文化に触れて、おまけにされたことのない挨拶をされ、身を固くしているアン。
「そんなに畏まらずともいいですよ」
クリアは、そう言って緑茶が入ったカップを出してきた。
「こ、これは!?」
アンは、そのカップを見て開いた口が塞がらなかった。
何故なら、そのカップには可愛い子犬のイラストが描いてあったからだ。
どう考えてもこの部屋の雰囲気にはそぐわない。
「ふふ、どうやらあまりの絵の可愛さに、さらに身を固くされてしまったようですね」
「いや、むしろこれのおかげで落ち着いてきたぞ……」
してやったといった表情のクリアを見て、アンがいつもの無愛想な顔を向けていた。
それから緑茶を飲みながら、アンたちがこの街について訊ねる。
「この街の名は歯車の街と言います。この工業街は、主にストリング帝国へ製品を売ることで成り立っている街です」
ストリング帝国と聞いたアンは、また身を固くしていた。
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