家族

父

　父は優しい。
　父は子供に、例えしつけでも叩くということをしない。諭すように言い聞かせるのが父だ。
　父は仕事が一番だ。幼い頃から、朝は私が起きる前に出勤し、夜は私が寝てから帰ってきた。そんな父は休日は昼近くまで寝ていることが多かった。幼い頃、たまに仕事帰りの父にしがみつくと、タバコの臭いが混ざった、独特の臭いがした。その臭いが私は好きだった。
　父はあまり母と話をしない。必要なことしか話さない。冗談も言い合わなければ、世間話もしない。私は見たことがない。
　父は手先が器用だ。物を直すのでも、工作をするのでも、私よりも綺麗にできる。字もきれいに書く。
　父は趣味でホルンを吹く。中学生の頃からずっと吹いているそうだ。
　父はあまり私に干渉しない。期待してアドバイスをする母とは大きく違った。
　父は休日もよく仕事の電話が入った。家族で旅行に行くと、母は機嫌が悪いことが多かった。

　母に優しくない父が、嫌いだ。

　私は父についてあまりわかっていない。母は父のことを目の敵にした。そんな父が哀れだった。