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 母は、幼い私にとって絶対的存在だった。  母は父と仲が悪かった。私には、物心のついた頃から両親が仲良くしているところを見たことがない。  母は父の誕生日を祝わない。  母は怒ると大きな声で怒鳴る人だった。私や妹が失敗すると酷く叱って叩いたり、時には家の外に出したりした。  母は一生懸命な人だった。得意でないはずの手料理を毎日三食欠かさず食べさせてくれた。栄養と家計に気を遣ってくれていた。  母は私に期待した。私は勉強ができない方ではなかった。私の成績がよいと、母は機嫌が良かった。  母は私に母の父のように学者になることを期待した。私も期待に応えるため懸命に努力した。  父に優しくない母が、嫌いだ。  妹にも平等に期待できない母が、嫌いだ。  感情的で、自分本意の論理を振りかざす母が、嫌いだ。
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