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【自転車落語:試しライド】
最近はロードバイクという西洋の自転車が流行っているようですな。
いや、あの自転車は速い速い、中には自動車と同じくらいのスピードで走っている方も居るからビックリです。
また、世の中にはロングライドなんて言って自転車で1日に100kmも200kmも走る方がおられるようです。
これはそんな自転車で長い距離を走るロングライドをする方たちのお話です。
あるイベントで自転車屋の店主が声をかけられます。
「よう、店主さんじゃないか?元気かい?」
「おお、隣町の店主。まぁ、元気だけが取り柄でな。」
「商売の方はどうだい?」
「まぁ、ボチボチだな」
「それはなによりだ」
「そういや、この間SNSで随分話題になってたじゃないか?」
こちらの隣町の店主、自転車のチームを持っておりまして
先日、そのチームメイトが1日に400kmも走ったとネットで配信して随分と話題になりました。
「まぁな、お陰で客の入りも上々よ」
「景気が良くていいねぇ」
「ウチのチームは強いからねぇ、オタクのチームにはこんなに走れるのは居ないだろう?」
実はこちらの店主も自転車のチームを持っているんですが、成績は鳴かず飛ばず。
しかし、隣町の店主の言葉にカチンときたようで…
「なんでぇ1日に400kmくらいで、ウチの若いもんなら400kmと言わず500kmは走るぜ」
「お、言ったな?ならやってもらおうじゃないか。できなかったら今度のレースの出場費用持ってもらうからな」
というわけで売り言葉に買い言葉で1日に500kmも走るのをネットで配信するという約束をしてしまった店主。
流石に1日で500kmは無理かなーと後悔しましたが、店に帰ってチームメイトの一番元気な奴に聞いてみます。
「お前いつもロングライドしているだろ?」
「はい、こないだも海沿いを走ってきましたよ」
「1日に500km走れるか?」
「500kmですか、えらく距離がありますね」
「どうだできそうか?」
「うーん、ちょっと経験がないのでなんとも言えませんが…」
「頼む、走ってくれ。でないと隣町のチームの遠征費用全部持たないとならんのだ」
「それっていくらくらいですか?」
「10人で県外に行くって言ってたからな、数十万、いや100万超えるかもしれん」
「けっこうな金額ですね」
「そうなんだ、頼むよ」
「じゃあ、こないだ買ったフレームの代金待ってくれませんか?今月ちょっと厳しくて」
「ああ、そんなもんいつでもいい」
「なら、やってみます。いつやるんですか」
「それが明日なんだ」
「えらく急ですね」
「わかりました。じゃあ、あの公園に朝7時スタートでいいですね?」
「ああ、頼んだぞ。明日朝7時だからな!」
「じゃ、ちょっと出かけてきますね」
そんなわけで明くる朝。
待ち合わせをした公園で、店主と隣町の店主のが待っておりますと
チームメイトがやってきます。
「じゃあ、ここから三つ隣の県の神社に行って、お参りして帰ってきてくれ、そうすれば往復で500kmあるはずだ。 SNSでの配信や写真の投稿忘れるなよ」
「はぁ、じゃあ、そこまで行ってくればいいんですね?」
「道はわかるか?」
「行ったことがあるんで大丈夫です」
「いけそうか?」
「まぁ、大丈夫だと思いますよ」
「すごい自信だな、500kmだぞ」
「じゃあ、行ってこい!」
「行ってきます」
店主と隣町の店主それぞれ店に帰りまして。
帰ってくる時間に再度公園で出迎えるという手はずになっております。
狭い町ですし、ちょっとしたイベントということで
どちらの店もネットでの中継を告知したら、わりと盛り上がってしまいまして
「おお、もう隣の県まで行っているぞ」
「名物の蕎麦なんて食ってますね」
「ここの峠がキツイんだよねー」
「景色いいですねー」
「あ、コンビニでソフトクリーム食ってますね」
「今日は暑いからねー」
と自転車乗りの間で話題になったりしてまして
そんなこんなで日も暮れかかった頃に
「あと一時間くらいで到着します」
と連絡があったので、店主と隣町の店主が公園に出迎えに行きます。
待っていると、大して疲れてもいなさそうな様子で帰ってくるチームメイト
「おかえり!よくやってくれた!」
「負けたよ、まさかそんなに走れるとは思っていなかった」
「どうだ、ウチにもこんな選手がいるんだぞ!」
「わかったわかった…」
しばらく労いの言葉をかけたあとで、ふと気がつきました。
「そういえば昨日、あの話のあとにどこへ出かけていたんだ?」
「はぁ、500kmなんて走った事がなかったんで…
今日の神社まで試しに走ってみたんです」
どっとはらい。
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