深紅の蝶

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彼女の戴冠式はその翌日に催された。あまりに急な皇帝の提案だったこともあり、帝国の中心部にある帝都から大きく離れた国境沿いに住んでいる有力な貴族たちが出席することができないという異常な事態だったものの、式自体は滞りなく終了。無事に彼女は皇女から皇帝となり、バーナードは戴冠式が終わり、それを記念した祝宴が開かれ、一日が終わり、次の日には姿を消してしまっていた。 門の守衛は、城からでる人影は見ていないと話し、彼の部屋の中のものも何も無くなっていなかったため、人々の間には「前皇帝バーナードは実は人間ではなくて彼の正体は私たちを導くために最高神ゼウスが遣わせた使い」だとか「バーナードはお世話係に変装して今は皇帝エルザの使用人をやっている」などの、現実味に酷く欠けた色々なゴシップが流れることとなる。まあ実際のところ彼は恐らくどこかに秘密の抜け道でも用意しておいて、どこからか抜け出し、気ままな旅にでも出たのだろう。まったくもって無責任というか......自由な男である。 さて、そんなこんなでエルザの治世となったエトルート王国だったが、やはり先代の名君の薫陶を受けた皇帝、それでいて相談役も同い年ということで彼女も気楽に相談できるというのもあってか、国の発展はとどまるところを知らず、彼女に不安を抱いていた国民たちはみな安堵し、新たな皇帝の誕生を心から祝福できるようになっていった。 そしてそんな安定した政治が2年が続き皇帝の立場が揺るぎないものとなった頃、彼女は帝国の中枢の幹部たちを集めてこれからの国の方針について伝えた。それは、「リデア王国、カラド王国を侵略、制圧し、ボイド地方を統一する。」というものだった。一部はそれに賛同したものの、父の代から仕えていた幹部の多くはリデア王国、カラド王国の戦争に巻き込まれて国が滅ぶ一歩手前まで行った時に国の内部に関わっていた人だったため、他国との争いを忌避しており、国の中枢部は二つの派閥に分かれてしまうこととなる。 この出来事をきっかけに、国の中枢部は皇帝エルザを中心としたボイド統一派と、旧世代の幹部を筆頭とした三国共存派に分かれることとなる。
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