深紅の蝶

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ここはエトルート帝国というボイド地方にある小さな帝国。ボイド地方には他にリデア王国、カラド王国という2つの大国があり、エトルート帝国はその2つの国に挟まれる形で位置しており、かつてその2つの国の間で戦争が起こった際に戦地となり、多くの人が死に、街並みは破壊され、未来に絶望した国民の一部が他国へと亡命していき、滅亡の一途を辿ると誰もが思った。 しかし戦争の余波で命を落とした皇帝の跡を継ぎ18歳で皇帝となったバーナードの見事な政治的手腕により、一代にして驚異的な早さで復興を遂げ、今や2つの大国に負けずとも劣らないほど栄えているという数奇な運命を辿った国家なのだ。 そんな帝国の英雄ともいえる皇帝バーナードはどれだけ年を重ねても20代前後に見えるような整った顔立ちをしており非常に女性人気が高く、彼に色目を使うような女性は後を絶えなかったが、彼は一人の女性を愛し続け、また彼女との間には一人娘がいた。名前はエルザといい、美しい白銀の髪に透き通った深い紅の目を持つ、非常に美しく、それでいて芯の通った強い子だった。 復興がおおよそ終わりエルザが18歳になった日、彼はエルザを呼び出し、 「この国はかつての輝きを取り戻した。きっと、私の役割ももう終わりなのだろう。お前はもう立派に育った...私が荒れた山を切り開き、開拓した土地をどう使うかはきっとお前の自由なのさ。私より優秀なお前はもう皇帝の器を持った人間だ。私はお前に今日この日をもって皇位を譲る。急な話だから驚いたと思うが、ま皇帝命令ってことだ。 あと、お前の唯一のお世話係の同い年の男の子......私たち一族に昔から仕えてる家柄の出身のアルバートって子がいたと思うのだが、あの子をお前専属の従者、並びに相談役としようと思ってる。お前が小さい頃から一緒に遊んできた仲だからそれで大丈夫だろう。」 と言った。エルザは突然の言葉に慌てふためき、この状況に陥った全ての人間がそうするであろうように「私にはまだ早い。」だったり「名君と呼ばれ親しまれている父君がここで皇帝の座を降りては民の士気も下がりかねない。」などなんとかその提案を撤回させようと抵抗してみたものの、奮戦虚しくバーナードに強引にその命令は実行されることが決定してしまい、彼女は今まで帝王学なんかの勉強はさせられてこそいたものの、ろくな心の準備もさせて貰えないまま次期皇帝となることが決まってしまう。
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