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……いったん落ち着こう。
どうやらわたしは今、好きな人から交際を申し込まれているらしい。ただし、期間限定で。
「え、えっと……一ヶ月、なの?」
「俺ね。夏祭りの次の日に引っ越すの。だから、今日から一ヶ月後、祭りの日まででいいからさ」
「……その、先は?」
「ないよ、そこで終わり。ただの思い出作りだから、それでいいの」
「そっか……」
よく考えれば当たり前か。ただの思い出作りだからこそ、わたしは選んでもらえたんだと思う。彼はきっと「彼女がいるゴッコ」をしたいだけなんだろう。
たった一ヶ月でも、好きな人と付き合えるなら嬉しい。断る訳がない。でも……せっかくなら、ちゃんと両思いで付き合いたかった。
そんな複雑な想いを胸に無理やりしまい込んで、わたしは再び口を開く。
「うん、付き合う。でも、その代わり……」
「あっ! みんなに秘密でとかだろ? もちろんそれでいいよ! 今後に支障が出るもんな」
わたしが先を言わないうちに、結城くんは勢いよく捲し立てたけれど、その内容は的外れだった。
「何それ。そんなのどうでもいいよ」
「え、じゃあなに?」
「付き合うから、だから……ちゃんと本物の彼女みたいに、大事にしてほしいな」
彼の猫目が、驚いたように大きく見開いた。その瞳に吸い込まれていたら、頭の上にすっと手が伸びてくる。
けれど、結城くんの手は触れる寸前でやっぱり止まった。どうしても触れてくれないの? と寂しい気持ちになっていると。
「……ん? 俺の彼女だし、もういいよな?」
彼は独り言のようにボソボソと言って、その手をそっと乗せた。
どうしようもなく嬉しい。視界が滲みそうになって、慌てて何度も何度も瞬きをする。
「てか、めちゃくちゃ大事にするし!」
結城くんはまるでお昼寝する猫みたいにふにゃっと笑って、わたしの頭をくしゃくしゃと撫でた。本当に幸せだ。幸せ過ぎる。
「桃花、一ヶ月間よろしくな」
「うん、こちらこそ」
でも少しだけ、切なくて痛い──。
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