序章

2/3
221人が本棚に入れています
本棚に追加
/180ページ
暑い。とにかく暑い。拭っても拭っても、すぐ額にじわりと汗が滲む。 部活のパート練習。みんな冷房の効いた音楽室で快適に練習しているというのに、わたし達パーカッションだけ、狭くて暑苦しい音楽準備室に追いやられている。一つ一つの楽器が大きいせいで、全体練習の時にしか音楽室に呼んでもらえない。理不尽過ぎる。 準備室の空気はまるで、この間家族で行ったスーパー銭湯のサウナみたいにもわんとしている。せめて扇風機が欲しい。 ポタリ。ついにシロフォンの上に額の汗が落ちた、その時。 「あちぃーっ! もう無理!」 ずっと鳴り続けていたエイトビートがピタリと止んで、代わりにハスキーな声が大きく響いた。ドラムを叩いていた結城(ゆうき)くんだ。 彼はスティックをスネアの上に置くと、立ち上がって廊下へと出ていった。あまりの暑さに耐えかねたらしい。窓から身を乗り出しているその背中は、きっと外の風に当たっている。 暑さのせいで練習にすっかり飽きてしまっていたわたしも、結城くんに倣って廊下に出た。 「お、いらっしゃい」 「暑くて無理だよね。わたしも休憩しよ」 彼の隣で同じように身を乗り出すと、緩い風が頬を撫でた。涼むにしては生ぬるいけれど、準備室内よりは幾分まし。 校舎の外からは、活気に満ちた掛け声が響く。すぐ下の裏庭を、どこかの部活がランニングしているのだ。 今日は炎天下なのに、どこからあの元気が出るんだろう。わたしなんて、室内でシロフォンを叩いているだけで暑くて倒れそうなのに。
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!