九八回目

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九八回目

 でも、それからはどういうわけか、彼の告白を断ることに抵抗がなくなってきた。  毎週のようにシュートされる彼の告白を、また来たかと思いながら、正面からの「キライ」でセーブする。それは秋が過ぎて、冬を越して、春を迎えても続いた。 「進級おめでとうございます! 好きです!」 「おめでとうって言うほどのことでも……。あと私はアンタのことキライ」 「大会お疲れ様でした、センパイ! 好きです!」 「お疲れ様、ナイスシュートだったね。でもキライ」 「今までマネージャーとして支えてくれて、ありがとうございました! 好きです!」 「うん、でも私そういうの今興味ないの。受験もあるし……」  さすがに私が部活を引退してからは、彼の告白の頻度も下がった。それでも二週間に一回くらい、彼は私を見つけ出して告白し続けた。  その頃からは「キライ」よりまず「忙しい」とか「興味ない」と言うようになっていた。実際、受験勉強は忙しかったし、恋愛なんてしている暇はなかった。 「センパイ、最近キライって言わなくなりましたね。俺のことキライじゃなくなったんスか?」 「ううん、キライ」  聞かれたときだけ、そう返していた。  私が大学に合格したときも、彼は祝いがてら告白してきた。 「センパイ、合格おめでとうございます! 好きです!」 「ありがとう。このありがとうは合格を祝ってくれたことに対してだけど」 「やっぱ勢いじゃダメっスか……」 「ダメっス」  そっスよね、と肩を落とした彼は、しかしすぐに「聞いてくださいよ」と話題を変えた。 「センパイ、俺来年キャプテンっスよ」 「うん、聞いた聞いた」  そう、彼は今やサッカー部のエースとして活躍し、来年度のキャプテン就任が内定していた。 「センパイのおかげっス」  でも、そんなことで私の気持ちは揺らがない。 「私のおかげじゃないでしょ。アンタの努力の結果だよ」 「いや、センパイがいなかったら俺はここまで頑張れなかったっス」  告白を九八回断ったことが、そんなに彼の活力になっていたんだろうか。 「ドMじゃん」 「何スか?」 「何でもない」  つい口が滑った。まあ、あんなキツい練習をこなすサッカー部員は、大なり小なりマゾっ気があるのかもしれないけれど。 「センパイ」 「何?」 「俺、次の先輩の登校日にも告白しますから」 「ふーん」  口ではそう返しながら、内心ちょっとドキッとしていた。今までは、次にいつ告白するかなんて、言われたことがなかったから。 「ま、頑張ってね」 「ちょ、何で他人事なんスか」  鼻で笑ってあげると、困り笑いで返された。 「次の登校日、か」  そう呟いたとき、心に穴が空くような感じがした。
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