5人が本棚に入れています
本棚に追加
九八回目
でも、それからはどういうわけか、彼の告白を断ることに抵抗がなくなってきた。
毎週のようにシュートされる彼の告白を、また来たかと思いながら、正面からの「キライ」でセーブする。それは秋が過ぎて、冬を越して、春を迎えても続いた。
「進級おめでとうございます! 好きです!」
「おめでとうって言うほどのことでも……。あと私はアンタのことキライ」
「大会お疲れ様でした、センパイ! 好きです!」
「お疲れ様、ナイスシュートだったね。でもキライ」
「今までマネージャーとして支えてくれて、ありがとうございました! 好きです!」
「うん、でも私そういうの今興味ないの。受験もあるし……」
さすがに私が部活を引退してからは、彼の告白の頻度も下がった。それでも二週間に一回くらい、彼は私を見つけ出して告白し続けた。
その頃からは「キライ」よりまず「忙しい」とか「興味ない」と言うようになっていた。実際、受験勉強は忙しかったし、恋愛なんてしている暇はなかった。
「センパイ、最近キライって言わなくなりましたね。俺のことキライじゃなくなったんスか?」
「ううん、キライ」
聞かれたときだけ、そう返していた。
私が大学に合格したときも、彼は祝いがてら告白してきた。
「センパイ、合格おめでとうございます! 好きです!」
「ありがとう。このありがとうは合格を祝ってくれたことに対してだけど」
「やっぱ勢いじゃダメっスか……」
「ダメっス」
そっスよね、と肩を落とした彼は、しかしすぐに「聞いてくださいよ」と話題を変えた。
「センパイ、俺来年キャプテンっスよ」
「うん、聞いた聞いた」
そう、彼は今やサッカー部のエースとして活躍し、来年度のキャプテン就任が内定していた。
「センパイのおかげっス」
でも、そんなことで私の気持ちは揺らがない。
「私のおかげじゃないでしょ。アンタの努力の結果だよ」
「いや、センパイがいなかったら俺はここまで頑張れなかったっス」
告白を九八回断ったことが、そんなに彼の活力になっていたんだろうか。
「ドMじゃん」
「何スか?」
「何でもない」
つい口が滑った。まあ、あんなキツい練習をこなすサッカー部員は、大なり小なりマゾっ気があるのかもしれないけれど。
「センパイ」
「何?」
「俺、次の先輩の登校日にも告白しますから」
「ふーん」
口ではそう返しながら、内心ちょっとドキッとしていた。今までは、次にいつ告白するかなんて、言われたことがなかったから。
「ま、頑張ってね」
「ちょ、何で他人事なんスか」
鼻で笑ってあげると、困り笑いで返された。
「次の登校日、か」
そう呟いたとき、心に穴が空くような感じがした。
最初のコメントを投稿しよう!