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九九回目
そして、あの九九回目。
彼は、いつもの挨拶ついでみたいなやつではない、きちんと用意してきたのであろう長台詞で告白してきた。
詳しくは覚えていない。私に一目惚れしてから、彼がいかに私の存在に励まされ、助けられたか。そんな感じの内容だったと思うけれど、恥ずかしくてまともに聞けなかった。
そのあと彼は、最後だけはいつものように言った。
「俺と、付き合ってください!」
そのとき、私は思ったのだ。もう、うんざりだと。
深く丁寧に腰を曲げ右手をこちらに差し出している彼を眺めるのは。
ここまで誠実に私を想い続けてくれた彼の好意を、無下にし続けるのは。
「だから、嫌だってば。そういうの興味ないんだって」
この台詞も、毎回アレンジしているとはいえ、飽きた。
それに、この言葉はもう明確に、嘘だった。
「……分かりました」
ここまではいつも通りだった。私の内心以外は。
「卒業式の日にもう一回だけ、センパイに告白します。それでダメなら、諦めます」
九九回目にして、初めて「諦める」という単語が出てきた。ほんの少しだけ驚いたけれど……本当はものすごくショックだったけれど、私はそれを隠して言う。
「ふーん、やっと諦めてくれるんだ」
「まだっス。もう一回――」
「はいはい」
努めてテキトーにいなしつつ、踵を返してから、私は首だけで振り返り、いつものように彼に叩きつける。
「でも私、アンタのことキライだから」
こんなことを言うのも、今日で最後にしようと思いながら。
その夜、私は去年卒業したあの先輩マネージャーに連絡した。
というか、泣きついた。よく考えもせずに、支離滅裂な長文を送りつけた。
『おー、ようやくかー!』
それに対して、先輩はたった一言で反応してきた。
『それだけですか?!』
怒りのスタンプを押すと、『ごめーんね』と書かれたスタンプが返ってきた。変なお辞儀をしているキャラクターが、ものすごくうざい顔をこちらに向けていた。
『ま、頑張りなよ〜』
ニシシと笑うスタンプに、私はドアを閉めるスタンプで返した。
座っていたベッドに寝転がり、自分が送った長文を読み返す。その途中で、あることに気付いた。
「九九回……」
告白された回数を、書いていた。
冷静に考えて、告白された回数をカウントしているなんて、気持ち悪い。その事実に、吐き気がした。
でも、不思議とその感覚が少しだけ、温かかった。
卒業式の日は、あっという間にやってきた。
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