一〇〇回目

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一〇〇回目

「センパイ!」  今日だけは私から声をかけようと思っていたのに。そういうことを全然考えないところがキライだ。 「卒業、おめでとうございます」 「……うん」  少し離れたところでは、クラスメイトたちが記念写真を撮っている。見られてしまうかもしれない。そういうことまで気が回らないところがキライだ。 「今日で、最後にします」 「うん」  声に覇気が足りない。あんなに諦めが悪いくせに、こういうときだけ弱腰なところがキライだ。 「センパイ……」 「……」  いつもならさらっと発している告白の言葉を、今日だけは言いよどむ。変にじれったいところがキライだ。 「俺と、付き合ってください」  差し出された手はゴツゴツしていて、大きかった。そういうところだけ男らしいのがキライだ。 「私、アンタのことキライだから」 「……そっスか」  まだ話は終わっていないのに、もう諦めたような顔をしている。無駄に早とちりするところがキライだ。 「うん、キライ。すごくキライ」  そこからは、私の独壇場だった。 「いつも私の事情なんか考えもしないで話しかけてくるところがキライ」 「後輩のくせにやたら馴れ馴れしいところがキライ」 「男のくせに私より背が低いところがキライ」 「シュートを決めるたびに私のこと見てドヤ顔するのがキライ」 「部活のLINEグループから私の連絡先分かるはずなのにいつまで経ってもメッセ送ってこないチキンなところがキライ」 「何の取り柄もないし大して可愛くもない私のことを好きとか言っちゃうところがキライ」 「私なんかを振り向かせるためにエースにまでなっちゃう勘違い野郎なところがキライ」  一生分のキライを言ったかもしれない。こんなに言うはずじゃなかったのに、彼を前にしたら、キライしか出てこなかった。 「センパイ……」  それでも、彼は私に気遣うような声をかけてくる。そういうところも――。 「何で、泣いてるんスか」 「うるさい!」  目を拭って、鼻をすする。もう、顔も心もぐちゃぐちゃだった。 「こんな……」  立っていられなくなって、その場にしゃがみ込む。彼もしゃがんだのを音で感じた。 「こ、こんなのしかないっスけど!」  くちゃっとしたハンカチを差し出す彼のその手を、すがるように握って。  絞り出すように、言った。 「私をこんな気持ちにさせるアンタが、キライ」  周りは泣いたりはしゃいだりでものすごくうるさかったけれど。  私と彼の周りだけは、不思議と静かに感じた。
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