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???回目
「知ってますかー。あいつ、この二年間めっちゃコクられまくってたんですよ」
マネージャーだけで私の卒業祝いをすることになって、適当なファミレスで駄弁っていたとき、後輩マネージャーがそう教えてくれた。
「でも、コクった人は全員断られたそうです。『好きな人がいるから』って言われて」
ものすごくじっとりとした視線を向けられて、私のせいじゃないのに申し訳なくなってくる。私のせいじゃないのに。
「うちらの学年にも、あの先輩のこと好きだって言ってる子何人かいますよ。やっぱサッカー部のイケメンエースってみんなの憧れですからね〜」
そう言うのは、私が三年になってから入部した、二つ下のマネージャーだ。
「うわ、じゃあその子たちにも早く教えてあげなきゃだね。無駄に撃沈するだけだよって」
「言ってますけど〜、『でも付き合ってはいないんでしょ?』って言われちゃいます」
「じゃあ、これからは『付き合ってる人がいるから』って言ってあげて」
「は〜い」
結局、けっきょく、私と彼は付き合うことになった。そのことを彼女たち三人に報告したら、一通り勝手に盛り上がられて、それからさっきのやりとりになったのだ。
そう、三人。
「ほーんと、やっとって感じだよねぇ」
大学一年生を終えたばかりの元先輩マネージャーも駆けつけてくれていた。まあ、彼女にはあらかじめ『付き合うことになりました』と報告してあったので、今日は私を煽るためにわざわざ来たんだと思うけれど。
「てか何、どうやって付き合うことになったの? キミが素直にスキって言うとも思えないんだけど」
「言いませんよ。キライですもん」
あの卒業式の日。落ち着くまで彼の手を握ってから、最終的に握手の形に変えたら、
「センパイ……これ、もしかしてOKってことですか!?」
などと聞いてきたので、
「そういうこといちいち聞いちゃうところがキライ」
と返した。
そう話したら、
「うわ、鬼だね」
「小悪魔ですね」
「センパイそれは……」
引かれた。
「ツンデレにも程があるよ、さすがに」
「そんなつもりは……」
デレてないし。
「これまでならまだしも、付き合ってからもあんまりつんけんしてると、愛想尽かされちゃいますよ」
「それは……」
そういうものなんだろうか。
「男の子って、浮気者ですから〜」
「……」
いったい何を経験してきたんだろう、この子は。
「あ、でも〜、女のほうが浮気者かも〜」
「しないよ!」
ついちょっと大きな声が出た。二重の意味で恥ずかしくなって、縮こまる。
「ま、恋はこれから始まりってわけだよ、ルーキーくん」
先輩に隣から肩をポンと叩かれた。私はいつまでルーキーくんなんだろうか。
「そうですよ。センパイは大学で、あいつはこれから受験なんですから。これまでみたいに会えなくなるんですよ」
「お、いきなり難関だ」
「やめてくださいよ……」
想像するだけで不安になる。こんなことなら、もっと早く……と一瞬だけ思ってから、それはないなと思い直した。
「あ」
それからしばらく喋り散らかしていると、スマホが短く震えた。手に取ると、すぐさま野次が飛ぶ。
「お、LINEかー?」
「あいつですか」
「やだ〜」
「うるっさい」
ノイズを無視してメッセージを確認すると、彼だった。
『明日会えますか』
彼のメッセージはいつも淡白で、スタンプも全然使ってくれない。いつも怒っているみたいでキライだ。
『やだ』
六つのニヨニヨした目がこちらを向いているのを肌に感じながら、返信を打つ。
『そこを何とか!』
『どこで?』
『そういうとこ好きです!』
『うるさい』
場所を指定するメッセージを確認してから、私はあっかんべーのスタンプを押す。すぐに既読だけがついて、返事はなかった。
顔を上げると、やっぱり三人ともニヨニヨしていた。
「何、そんなニヨニヨして」
「だってセンパイ……ねぇ?」
「ねぇ〜?」
後輩二人が中途半端に誤魔化すので、私は先輩のほうを向いた。すると、先輩は何も言わずに鏡を取り出して、こちらに向けた。
私の顔が、ここにいる誰よりもニヨニヨしていた。
「ほんっとに、大ッキライ!!!」
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