クマさんでにっこり

1/1
39人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 ボクはホクト。  市民センターの キッズコーナーに住んでいるよ。  子供たちには 一番人気があるんだぜ。 小っちゃな女の子は いつもボクを抱いてねんねするから たまによだれが付いちゃうけどね。  男の子は ボクを投げてあそぶのが 大好き。ひゃー そんなに強く投げたら 目が回っちゃうよ。  みんなといっぱい あそんだあとは 掃除のおじいさんが ボクをおうちにしまって 朝までぐっすり。  いっぱい いっぱいあそんで 真っ白だった体は だんだん茶色になってきて おなかもすり切れちゃった。  ある日 市民センターの所長さんが 新しいクマのぬいぐるみをつれて ボクのところにやってきた。 「おつかれさま。新しいクマさんと 交代だよ」   えー ボクはもう いらないの? 仲間のおもちゃも 心配そうにボクを見ている。  大きなビニール袋に入れたボクを 所長さんは 小さな部屋に閉じ込めた。  ばたん! ドアが閉まると まわりは真っ暗。  怖いよ!誰か助けて!  誰も来てくれない。  次の日の朝  ぎいーっと開いたドア。  入ってきたのは 掃除のおじいさん。  助けて! 泣きべそをかいているボクを見つけて おじいさんが 袋から出してくれた。 「新しいクマさんがきたからって こんなところに捨てたら かわいそうじゃないか」  おじいさんは ぶつぶつ言いながら ボクを抱き上げた。 「おじいさんと来るかい?」 もちろん! おじいさんに連れられて 裏庭に来た。 「さあ、きれいにするぞ」  おじいさんは 大きなタライにボクを入れると お湯をじゃばじゃば。 わあ、お風呂だ! ボク 初めてだよ。  あっというまに真っ黒になった タライのお湯を おじいさんは 何度も 何度も取りかえて やさしく ごしごし。  すっかりきれいになったら 物干しざおで ぶーらぶら。  お日さまが気持ちよくて なんだかねむくなっちゃった。  夕方ボクは 自転車のかごのなか。 おじいさんが ペダルをぐいぐい。 速い 速い! 風がぴゅうぴゅう。 気持ちいいな!  着いたのは おじいさんの家。 やさしそうなおばあさんが 出むかえてくれた。 「まあ かわいいクマさん」  にっこり笑ったおばあさん。 「ホクトっていう名前だよ。新しいクマさんと交代したから 連れて帰ってもいいってさ」  おじいさんが ボクを紹介してくれた。 「男らしい名前だこと」  おばあさんは タンスをごそごそ 洋服を出してきた。 「息子が赤ちゃんのときに着ていた洋服だけど クマさんにぴったりね」  さいほう箱も取りだして おなかをしゅうりしてくれる。  次の日から ボクはおばあさんと一緒。 お話をきいたり お昼寝をしたり。 「おじいさんが お仕事に行っても もうさびしくないわ」  仲間のおもちゃとは 別れちゃったけれど ボクもさびしくないよ。 やさしいおじいさんと おばあさんに会えたから。  おじいさんの家にきて さいしょの冬が やってきた。  家の中には 小っちゃなクリスマスツリー。  夕方 おじいさんが 大きな袋をかかえて 帰ってきた。  いたずら小僧みたいな顔をした おじいさん。 袋から出したのは リボンがかわいい クマの女の子。 「お嫁さんだよ」  ワオッ!  びっくりするボクを見て おじいさんはにっこり おばあさんも にっこり。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!