第二章 三十男でバツイチです

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「牧先生、こんにちは!」 「こんにちは。お邪魔致しますね」  壮介と千都香、清子の三人の、初顔合わせから十日ほど経った土曜日。  「金継ぎ教室・但しお試し」の、初日がやって来た。    *  あの、初めて三人が顔を合わせて、壮介が二人を「お試し」の生徒として迎える事を承諾させられ……承諾した日。  清子の一見おっとりとしていながらその実無駄の無い差配によって、教室を開講するに当たっての諸々がてきぱきと決められた。  場所は、ここで良いとして。  教室の曜日は、千都香が会社員のため、土曜か日曜に。  時間は朝早くは壮介が仕事をしていることが多いので、午後に。  頻度はまずは月に二回、月謝は、材料費は、テキスト的なものは……。 「……先生?次回からの生徒さんにはこういう風にするっていう叩き台を、遠慮なく私たちでお作りになって頂戴ね」 「……はあ……」  決め事の多さにうんざりし始めた壮介に、手馴れた様子で必要事項の確認を促していた清子がにっこりと笑った。 「じゃあ私はこのメモを基にして、講座の流れとかテキストとかの叩き台を紙で作って来ますね」  千都香は千都香で、講師が三十男だった事には諦めが付いたのか、手近に有った今時珍しい裏の白いチラシに必要な内容をメモしている。 「あ。そう言えば、ホームページの管理は誰が?」 「……友達。」 「そのうち、お友達にお目にかかれますか?ホームページも、もう少し分かりやすく親切にしたほうが良いと思うんです……写真を入れたりとか」 「千都ちゃん、ホームページのことも出来るの?!」 「多分。少しだけなら」 「少しでも十分よ!写真入れたり出来たら素敵ねえ!」 「……あー……そうだよなー……」  清子に驚かれてはにかんだ千都香に、清子と壮介が同時に言った。 「……講座すんのが男だって、お前みたいなのにもはっきり分かるようにしねーとだもんなー……」 「そんな事、言ってませんっ!!」  壮介の付け加えた余計な一言に、千都香はきっと眦を吊り上げた。 「なんでそんなに他人事みたいなんですかっ?!やるからにはちゃんとやる気出してください、やる気っ!!」 (……にこにこおばちゃんと勘違い小娘かと思ったら、陰の実力者とピーピー小うるさい尻叩き娘かよ……しかも、ダブルでお節介……)  「はいはいやる気ね、やる気やる気」と火に油を注ぐような返事をしながら、壮介は前途の多難さを思った。
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