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「ええ。……良いですよね?」
千都香は、壮介を見上げて聞いた。
自分の直し物では有るが、教えてくれているのは壮介だ。今、清子に割れの継ぎについて見せるより、別のことを進めて欲しいと思っていないとも限らない。
「ああ、お前が良ければな。清子さんも先々割れの補修をする事も有るだろうから、参考になるだろうし」
「ありがとうございます。……清子さん、ぜひ」
「ありがとう、千都ちゃん、先生」
千都香は壮介に頭を下げ、清子は竹ベラを置いて立ち上がって欠片の見える位置に来た。
「どの隙間も、ほぼ同じ位に削れてる。削り方はちょうど良いな」
「ありがとうございます」
壮介が合わせて見せた欠片を見て、千都香はほっとした様に笑い、清子は唸った。
「小さい物を直すのは、難しそうだわねえ」
「ですね。細かければ細かいほど、破片が多ければ多いほど手間です。これは綺麗に割れてますが、部分的に粉々になって隙間が大きく空く様な割れ方をする事も有ります。そういう場合は別の陶器の欠片を嵌めたり、強めのパテを入れて継いだりもします」
「まあ……!色々技が有るのねえ!」
「その辺は、必要に応じて、その都度憶えて貰うって事になりますね。……欠けは埋め終わりましたか?」
「ええ。自分なりにだけど」
「じゃ、確認しましょうか。……お前の方の次の作業は、削った面全部に薄く漆を塗ることだ」
「はい」
「釉薬が剥がれて素焼きの様に見えている所に、塗り残しが無い様に均一に塗れ。ただし、薄めに塗るんだ。厚塗りすると、乾く時に縮れやすい」
「分かりました」
千都香は壮介の掌から欠片を受け取って席に着き、自分の前に四片の陶器を並べた。
その千都香に壮介は、筆と、漆を入れた皿を渡した。そして塗り方をもう一度指導してから、清子の錆漆の出来の確認に入った。
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