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「あ、清子さん、ご存知でしたか」
「ええ、名物ですもの!富山に行ってらっしゃったの?」
「はい、仕事で買い付けに……もう一つ入ってませんか?」
「もう一つ?……ま!鰤寿司だわ!」
「時間が無くて、どっちも駅弁ですけどね」
「へえ……鰤も、お寿司が有るんですか?」
壮介に切れ味のあやしいナイフを借りてパンを切り、大皿に並べていた千都香が、二人の話に入って来た。
「元々は、郷土料理なんだよ。寿司って言うより、米と魚と蕪や人参を使った、発酵食品かな」
「そうなんですね!鱒のお寿司は、駅弁大会でよく見ますけど、鰤は初めてです」
「鰤のお寿司の駅弁は、余所では売らないみたいねえ。そういう意味でも、珍しいものだわね」
清子は手際よく二つの包みを開け、中の円形の寿司を放射状に切り分け始めた。
「鰤の方が、酒の肴に向いてるんですよね。壮介の栄養補給用にと思って、買って来たんですよ」
「まあ。それ、先生がご飯を食べないっていう話?」
「あ、お聞きになってますか?壮介の悪癖」
清子が、少しだけ困った顔をして見せる。和史も、それに倣って苦笑した。
「昔から、食べなくても平気なんだみたいな顔してまして……放っとくと針みたいに痩せ細ってたりしたもんですよ」
「えっ」
「まあ!」
和史の軽口に、女二人は眉を顰めた。
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