第三章 「ちぃちゃん」は無理

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「……あれか。常滑焼の破片に見えたが」 「あれが、平取千都香の『金継ぎで直したい物』だ」 「え?」 「どうして」  はっきりそうとは分かっていなかったのか、まさかそれが金継ぎの対象とは思わなかったのか。  二人は、率直に驚いた。 「理由なんざ知らねえよ。んなことわざわざ聞かねぇだろ。清子さんにも聞いて無ぇぞ」 「清子さんのとは、違うだろ」  清子の持ってきた物は、欠けたぐい呑みだった。あれは恐らく作家物だと一目で分かる。ひっくり返せば、裏印があるだろう──だが、千都香の方は。 「あれって、常滑焼の小さい(かめ)の蓋だよね?」 「だろうな」 「常滑の甕なんて、どこにでも有る安物だろ?」  千都香の持って来た蓋の大きさに見合う甕は、食品を入れて販売する容器として使われる様な、手のひらに乗せられる位の大きさだろう。もしそういう用途の甕ならば、それは「包装」だ。「甕」として売られている物ですら無いかもしれない。 「それが、直す程の物なのか?」 「直す程の物なんじゃない?千都ちゃんが直したいって持って来てるんだから」 「だが、金継ぎだぞ?品物より継ぎ代の方が明らかに高いだろう」 「そりゃ、まあねえ……」  金継ぎには、漆と金を使う。  漆は、固まるのに時間が必要な素材だ。必然的に、金継ぎの教室は一日では終わらない。回数分の講習料が掛かる事になる。  加えて、金の価格は年々高騰している。それが、金継ぎの費用が安くない大きな原因となっているのだ。 「(ガン)。それを、本人に言うな。それが俺の用件だ」 「それ?費用の事か?」 「それも含めて、全部だ。あの欠片を見てお前の思った事を、一切あいつに伝えるな」 「っ」  壮介の語気の強さに、毅は言葉を失った。   
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