184人が本棚に入れています
本棚に追加
/166ページ
「なんであいつがあれを持って来たかは知らねえし、理由なんか何だって良い。繕う器の価値を決めるのは客だ、世の中の基準は関係ねえ。どんな器だろうが……安物だろうが、そこら中に転がっている様な珍しくも無い器だろうが、新品が簡単に手に入る器だろうが、本人が直したいと思って持って来たもんには、俺は口は出さねえよ。どんな器だって、同じ様に扱う」
「だが、壮介」
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
壮介と毅の間のピリピリした空気に、和史が割って入った。
「……ガンガン。立場的に口出ししたくなっちゃうのは、分かるけどさ。多分、千都ちゃんには千都ちゃんなりの理由が有るんじゃない?……あれ、金蒔くの?」
「いや。ただし、蒔かない理由は金銭的な事じゃ無い。継いだ所を目立たせたくないそうだ。俺の説明を聞くまでは金継ぎは全部金を使うと思ってたそうだが、備前の直し跡を見て色漆にしたいと言って来た」
「……そっか。金を使うって知ってても直したいって思って来たんなら、相当大事な物なんだよ」
「多分な」
「……そうか……」
神妙な様子になった毅に、壮介は静かに告げた。
「作り手のお前には、お前なりの言い分が有るのは分かる。だが、あいつは俺の生徒で、ここは俺の教室だ。邪魔すんなら、帰れ。」
*
「お邪魔しました」
「千都ちゃん、またねー。清子さん、頑張って」
「はい。宜しくお願いします」
「頑張るわ、ありがとう!お寿司、ご馳走様でした」
壮介と二人の生徒は、玄関先で二人を見送った。
最初のコメントを投稿しよう!