第三章 「ちぃちゃん」は無理

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「なんであいつがあれを持って来たかは知らねえし、理由なんか何だって良い。繕う器の価値を決めるのは客だ、世の中の基準は関係ねえ。どんな器だろうが……安物だろうが、そこら中に転がっている様な珍しくも無い器だろうが、新品が簡単に手に入る器だろうが、本人が直したいと思って持って来たもんには、俺は口は出さねえよ。どんな器だって、同じ様に扱う」 「だが、壮介」 「まあまあ、二人とも落ち着いて」  壮介と毅の間のピリピリした空気に、和史が割って入った。  「……ガンガン。立場的に口出ししたくなっちゃうのは、分かるけどさ。多分、千都ちゃんには千都ちゃんなりの理由が有るんじゃない?……あれ、金蒔くの?」 「いや。ただし、蒔かない理由は金銭的な事じゃ無い。継いだ所を目立たせたくないそうだ。俺の説明を聞くまでは金継ぎは全部金を使うと思ってたそうだが、備前の直し跡を見て色漆にしたいと言って来た」 「……そっか。金を使うって知ってても直したいって思って来たんなら、相当大事な物なんだよ」 「多分な」 「……そうか……」  神妙な様子になった毅に、壮介は静かに告げた。 「作り手のお前には、お前なりの言い分が有るのは分かる。だが、あいつは俺の生徒で、ここは俺の教室だ。邪魔すんなら、帰れ。」    * 「お邪魔しました」 「千都ちゃん、またねー。清子さん、頑張って」 「はい。宜しくお願いします」 「頑張るわ、ありがとう!お寿司、ご馳走様でした」  壮介と二人の生徒は、玄関先で二人を見送った。    
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