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「午前中言った様に、割れた器には麦漆を使う」
「はい」
「まず、小麦粉に水を加えて練る。……これは、中力粉だ」
「中力粉?」
「パン作ったこと無いか?」
「パンッっ?!」
壮介は何気なく言ったのだが、千都香は何故か妙に慌てている。
「パンは、強力粉かしら?うどんによく使うわよね、中力粉」
「なるほど。清子さん、さすがですね。……千都香?」
「はいっ!?」
「……ちゃんと見てるか?」
変に顔が赤い千都香は、壮介の言葉にこくこくと頷いた。
「……この位になるまで、小麦粉を練る」
水を少しずつ足しながらへらで混ぜた中力粉は、擦り伸ばすと網目状の模様を描いた。
「わ、ほんとだ!粘ってる」
「この網目は、グルテンだ。これが接着を助ける。これが出るまで練ってから、漆を混ぜる。……これは、見本だ。使う分は、後で自分でやってみろ」
「はい。……グルテンって、天ぷらするとき出しちゃいけないあれですね?」
「生麩の材料にもなるわね」
口々に言う二人に、壮介は訝しげな顔をした。
「……なんでそんなに詳しいんだ?俺は最初聞いた時、食いもんかなんかの名前かと思ったぞ」
「グルクン?」
「ドゥル天?」
「……詳しいな、お前ら……」
言われた単語が何なのか、残念ながら壮介にはどちらも全く分からなかった。が、恐らくどちらも食べ物なのだろう。
女って奴はなんでこんなに食いもんに詳しいんだ、と思っていた壮介に、メモを取っていた千都香が言った。
「それ、説明に入れたらどうですか?」
「グルクンとドゥルテンか?」
「じゃなくて、中力粉がうどんに使われるとか、グルテンが生麩の材料とか。イメージしやすいんじゃないかなって」
「……俺は全然イメージしにくいぞ」
「でも、女性は多分そう言われたら分かりやすいわ。受講生さんは、女の人の方が多いんじゃない?今までの問い合わせは、男女どちらが多かったの?」
「……圧倒的に、女……の人、です……」
多いどころか、若造からは習いたくないと言った男性以外は全員女性だ。
「じゃあ、書いておきますね。うどんと生麩」
うどんと生麩、と言う言葉を頭の中で巡らせながら、壮介は少々複雑な気持ちで、へらで捏ねたグルテンの見本を空いた皿によけた。
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