第三章 「ちぃちゃん」は無理

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「……なんだよ、その『そうですかぁ?』ってのは」  壮介が、千都香以上に眉根を寄せる。 「だって、褒めるならもう少し褒め方ってものが……あ!網になってきた!」 「よし。次は漆な。この状態になってから漆だぞ、憶えとけ」  壮介の手でガラス板に、練った小麦粉と同じ位の量の漆が乗せられた。 「漆を混ぜるのも、少しずつだ。急ぐと入れ過ぎて台無しになる」 「はい」 「出来上がりの硬さは、割れた欠片の接着面に竹べらで付けられる位だ」 「はい……このくらい?」  見せられた麦漆を眺めた壮介は、ほんの少し考えた。 「もう少しかな。漆をマッチの頭くらい足してみろ」 「……この位で、良いですか?」  足された漆が均一に混ぜられた麦漆を見て、壮介は満足げに微笑んだ。 「ああ、良いな。上出来だ」 「ありがとうございます……でも、先生。」 「あん?」  千都香は一旦へらを置き、メモを手に取った。 「マッチの頭は、若い人には分かりません。」 「……は?」 「ああ!そうね、今の子は、マッチなんて使わないから、知らないものねえ!」 「私はたまたま知ってましたけど、マッチの頭は現代では死語ですよ?……綿棒にしましょう、綿棒に」 「綿棒……?なんだ、それ」 「大丈夫です。先生にはなんだそれでも、ほとんどの女性には分かります。」  自信満々にメモ帳に書き付ける千都香を見て、壮介は反論を諦めた。 「……全部、任せる……そこら辺はもう、お前の好きな様にしてくれ……」  壮介は擦り付け様の竹べらを用意しながら、半ば唸る様に千都香に頼んだ。
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