184人が本棚に入れています
本棚に追加
/166ページ
「……なんだよ、その『そうですかぁ?』ってのは」
壮介が、千都香以上に眉根を寄せる。
「だって、褒めるならもう少し褒め方ってものが……あ!網になってきた!」
「よし。次は漆な。この状態になってから漆だぞ、憶えとけ」
壮介の手でガラス板に、練った小麦粉と同じ位の量の漆が乗せられた。
「漆を混ぜるのも、少しずつだ。急ぐと入れ過ぎて台無しになる」
「はい」
「出来上がりの硬さは、割れた欠片の接着面に竹べらで付けられる位だ」
「はい……このくらい?」
見せられた麦漆を眺めた壮介は、ほんの少し考えた。
「もう少しかな。漆をマッチの頭くらい足してみろ」
「……この位で、良いですか?」
足された漆が均一に混ぜられた麦漆を見て、壮介は満足げに微笑んだ。
「ああ、良いな。上出来だ」
「ありがとうございます……でも、先生。」
「あん?」
千都香は一旦へらを置き、メモを手に取った。
「マッチの頭は、若い人には分かりません。」
「……は?」
「ああ!そうね、今の子は、マッチなんて使わないから、知らないものねえ!」
「私はたまたま知ってましたけど、マッチの頭は現代では死語ですよ?……綿棒にしましょう、綿棒に」
「綿棒……?なんだ、それ」
「大丈夫です。先生にはなんだそれでも、ほとんどの女性には分かります。」
自信満々にメモ帳に書き付ける千都香を見て、壮介は反論を諦めた。
「……全部、任せる……そこら辺はもう、お前の好きな様にしてくれ……」
壮介は擦り付け様の竹べらを用意しながら、半ば唸る様に千都香に頼んだ。
最初のコメントを投稿しよう!