第三章 「ちぃちゃん」は無理

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「……清子さんの方は、釉薬(ゆうやく)は削れましたか?」 「こんな感じかしら?」  清子は、午後は、茶碗の作業をしていた。  午前中ぐい呑みに盛った錆漆は、一日では固まらない。次回の教室まで、ぐい呑みの方は作業出来る事が無いのだ。 「うん。大体良いですが……ここ、もう少し削って下さい。」  茶碗には、ひびが入っていた。ひび割れは、ひびに漆を染み込ませて硬化させてから、上に漆を塗り重ね、状態に合わせて仕上げをする。  漆は、釉薬がかかっている場所には染み込まない。なので、ひびの周りをヤスリで削り、釉薬を剥がして地を出す事が必要になるのだ。  今清子がしているのは、その作業だった。 「分かりました。どこを削るのかが、難しいわねえ……」 「傾けて見ると分かりやすいですよ。光ってツヤの有る所は、釉薬がかかったままの所です」  壮介が傾けて見せると、清子が手を打った。 「ま!ほんとねぇ!」 「見辛かったら、これ使いますか?」  壮介が、眼鏡を清子に差し出した。  麦漆の盛り具合を確認していた千都香はついと顔を上げ、壮介の持っている眼鏡を見て、顔を強張らせた。 「先生っ……まだ若いのに、もう老眼っ……?!」 「違うわァアッ!!!!!!」 「っきゃ!?」  壮介は額に青筋を立てて、持っていた眼鏡を強引に千都香の顔に掛けた。  
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