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「ごめん……お待たせしました、梨香姉っ……ゆき……」
千都香は息を弾ませながら、二つの人影に謝った。
下車する前に「間に合わないかも」とメッセージを送り、その後は脇目もふらずにこの乗り場まで出来る限り急いで来たのだ。
「おー、間に合った!」
「ほんと、ごめん……仕事抜けるタイミング、掴めなくて……」
「大丈夫よ。バス、まだ来てないもの」
「そーそー!間に合わなかったら、みんなでタクろーって思ってたし、ちぃ姉持ちで!」
「あはは……ありがと、ゆき……」
息を整えていると、小型のマイクロバスが来た。
先に待っていた数人と千都香たち三人が乗ると、車内はほぼ満員になった。
「で、どう?例のお教室は」
一息ついたところで、二人掛けの隣に座った梨香に尋ねられた。
「ん。順調に進んでるよ。昨日、一応くっ付いた」
「へー!すげーじゃん!!」
「良かったじゃない!じゃあ、今日持って来てるの?」
「ううん。」
梨香と、前の一人掛けの席から乗り出している雪彦に、首を振る。
「漆って、固まるのに時間がかかるんだって。それに、かぶれる人も居るらしくって、完成するまで持って帰らせて貰えないの。教室に、預けてある」
「へえ、そうなのね」
「ん。仕上げまで、あと二回か三回かかるみたい。……あと、ひと月ちょっとかな」
「そう……」
三人の間には、おそらく同じ思いが過ぎっただろう。
──ひと月ちょっとは、長いのだろうか……それとも、短いのだろうか。
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