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「でもさー、ちぃ姉も物好きだよねー?あんなん、接着剤で付けたら一瞬じゃん?」
「……そうだけど」
「ゆき。」
軽く口にした雪彦を、梨香がたしなめた。
「今更、そういうこと言わないの。ちぃちゃんに、任せたんでしょ」
「はーい。冗談冗談、ごめーん。……先生、行ってみたら、男だったんだっけ?どんな人?」
「うーん……おじさん?」
「そんなに年なの?」
「三十三だって」
「……三十三は、おじさんじゃなくない?」
しまった、と千都香は思った。梨香の地雷を踏み掛けた。従姉妹の梨香は、ちょうど三十になったところだ。年齢の話題には敏感なお年頃である。
「だってさあ、やってる事が、おじさんなんだもん」
梨香に、さり気なくフォローする。……決して年の数で「おじさん」といっている訳ではないのだ!……と、強調して置かなくては。
「作業に必要だからって、老眼鏡だかルーペだか掛けてたんだよ?あと、『マッチの頭くらいの量の漆を混ぜろ』とか言われたし」
「マッチ?!なにそれ死語!!」
けらけらと雪彦が笑う。それに全力で乗っかった。
「だよねー?言わないよねえ、マッチ。って言うか知らないよー、普通の若い子は」
「……それは、おじさんって言われても、仕方ないかもしれないわね……」
「俺らは分かるけどさあ、おーちゃんが焚き火で特訓してくれたおかげ……」
雪彦が軽口を叩きかけて、止まった。
三人の間の暗黙のルールに出来てしまった、小さな綻び。それを、一瞬、全員が持て余した。
そこでちょうどバスが敷地の中に入る門をくぐって、目的地が見えて来た。
「……ちぃ姉、昼飯食べれたの?」
「……ううん。」
雪彦の言葉に、千都香は溜息のように答えた。
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