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「カフェテリアか食堂に、寄って行く?」
梨香が千都香の溜息を「普通の会話」に変えて行く。
「売店で、パン買って食べる。端に置いてある椅子のとこで、ささっと」
売店以外に、各階にも休憩所は有った。椅子とテーブルだけでなく、電子レンジやウォーターサーバーも有り、上の階だと窓からの景色が開けていて眺めが良い。しかし、そこで何かを食べられる気分で居られるかどうかは、分からない。
自分たちの気分もだけれど、先客が居た場合、どのような状況に遭遇するかは分からないのだ。下で済ませて行く方が無難だろう。
「そんな急がなくても、ゆっくり食べなよ。俺も、何か食べよっかなー」
「ゆきは学食でお昼食べて来たって言ったじゃない」
「りか姉、知らない?ここのパン旨いんだよ、ちゃんとしたパン屋さんが納品してんの」
「へえ!前のとことは随分違うんだ」
「でしょ?フルーツとか、珍しい飲み物とかも売ってるしさー。今までのとこで一番良いかも、売店的に」
そこで、バスは停車した。運転手に頭を下げながら、乗客がぞろぞろと降りて行く。
「じゃ、行こうか」
三人がバスを降りると、待っていた客たちが乗り込み始める。折り返して、千都香達が来たのとは違う路線の駅に向かうのだ。
「……あれ?」
「どうしたの、ちぃ姉」
「今、知ってる人が居たかも」
清子に似た人影を、見た気がしたのだが。
バスの扉は閉まって、発車してしまった。
「……ごめん、多分気のせいだ。早く食べて、早く行こ」
今日、急に用事が出来たと、清子は言っていた。急な用事……ここに来る様な。
休憩所と同じだ、と千都香は思った。
ここには色々な事情を抱えた人々が、他にどうしようもなくて、集まって来る。
──あれが、もし、清子だとしても。
ここに居る清子が教室の清子と同じとは、限らない。話し掛けられたい気分かどうかは、分からないのだ。
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