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「御馳走様でした!……さ、地下鉄で帰りましょ!」
「え」
「地下降りたら駅って書いてありますよ?地下鉄じゃなく、JRも有るし……御馳走様でしたー、美味しかったです」
先生の前のトレイもまとめて、返却口に片付ける。
「神田からだと一本だぞ。こっからだと東京で乗り換えだろ」
「東京は、始発駅です。座れますよ?寝れますよ?」
「う」
先生は「寝れる」に弱いはず。
長内さんが、寝てて乗り越して終点まで行った事も有るって言ってたもん。
東京からなら座れるけど、神田は二つ目の駅だから、席が空いてなければ座れない。
「大丈夫です、任せて下さい。私、ちゃんと乗り換えますから!」
「……仕方無ぇな。お前が居るから、まあ良いか」
私が居るから。
電車音痴じゃない、っていうだけの、ささやかな信頼。
「東京駅は迷路ですから、気をつけないと……この電車、地下五階に着くんですって」
「は?!なんだそれ嘘だろ」
「嘘じゃ無いです、大丈夫です」
大丈夫です、私が居ます。
たった二年ぽっちの短い小さい信頼しか持ってない、漆の敵で不肖の弟子の私ですけど。
私は邪魔にならないように気をつけながら、人混みではぐれたりしないように、先生の手を、きゅっと握った。 【本編おわり】
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