牧壮介の東京無駄さんぽ・その1 多摩・日本橋

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  *  東京駅では無事に乗り換えることができて、思った通り、二人とも座れた。  ……でも。 「起きろ千都香」 「……へっ?……あ」  先生にもたれて、すっかり寝てた。手で目を擦る振りをして、涎垂れてないかこそっと確かめる。 「もう駅ですか……あれ?」 「やられた。終点だとよ」 「えっ」  終点……小学生が、登山遠足に来る様な駅……。  向こうのホームの端に、天狗が居る……。 「アナウンス、聞き逃したっ!?」 「……かもな……」  うそ……寝ちゃっても駅名のアナウンスで起きる自信が有ったのにっ! 「あぁっ!?」 「何だ?」  今更。  ほんっとに今更、扉の上の表示に気が付いた。 「これっ、特快だったんじゃないですかあっ……!?」 「特快?だから、何だ?」 「特快は、吉祥寺停まんないんですよっ!!」 「え。」  先生の仕事場の最寄り駅には、快速は停まるけど、特別快速は、停まらない。  特快乗ってたなら、アナウンスなんかされる訳ないじゃん……!! 「何で停まんねぇんだ?主要駅だろ」 「特快は吉祥寺飛ばして三鷹に停まるんですっ」 「何でだよ。三鷹より吉祥寺のが街だぞ」  だよね!でも停まんないものは停まんないんだよ、先生……。  っていうか、今まで知らなかったの?  さすが、乗るとき行き先を気にしない、電車音痴……!! 「仕方ねぇな。山でも登って帰るか」 「今からっ?!それに、登るのはここからじゃないですよっ!」  登山口に行くには、JRじゃ駄目だ。先生の苦手な私鉄に乗り換えないと。 「知ってる。和史と待ち合わせして乗り越した時に 、登ってみたからな」 「……乗り越しって、それ……?!」  寝て乗り越したの、それ?!ある意味すごい乗り越し……!  乗り越したら登山口だったからって、普通は登らないと思うよ、先生……。 「仕方有りません。登るなら、せっかくだから上で天狗焼き食べましょう」 「また食うのかよ」 「お蕎麦と並ぶ名物なんですよ?前に行ったとき見ませんでしたか」 「知るか、そんなもん。大体なんだその天狗焼きってのは……まさか肉か、天狗の肉か!?そんな怪しいもん食える訳ねえだろ!!」  ……見たことも無い癖にこき下ろしてた、肉ではない天狗焼きが、先生のお気に召したのは。  この一時間くらい後の話だ。   【その後 終わり】
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