43人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
*
東京駅では無事に乗り換えることができて、思った通り、二人とも座れた。
……でも。
「起きろ千都香」
「……へっ?……あ」
先生にもたれて、すっかり寝てた。手で目を擦る振りをして、涎垂れてないかこそっと確かめる。
「もう駅ですか……あれ?」
「やられた。終点だとよ」
「えっ」
終点……小学生が、登山遠足に来る様な駅……。
向こうのホームの端に、天狗が居る……。
「アナウンス、聞き逃したっ!?」
「……かもな……」
うそ……寝ちゃっても駅名のアナウンスで起きる自信が有ったのにっ!
「あぁっ!?」
「何だ?」
今更。
ほんっとに今更、扉の上の表示に気が付いた。
「これっ、特快だったんじゃないですかあっ……!?」
「特快?だから、何だ?」
「特快は、吉祥寺停まんないんですよっ!!」
「え。」
先生の仕事場の最寄り駅には、快速は停まるけど、特別快速は、停まらない。
特快乗ってたなら、アナウンスなんかされる訳ないじゃん……!!
「何で停まんねぇんだ?主要駅だろ」
「特快は吉祥寺飛ばして三鷹に停まるんですっ」
「何でだよ。三鷹より吉祥寺のが街だぞ」
だよね!でも停まんないものは停まんないんだよ、先生……。
っていうか、今まで知らなかったの?
さすが、乗るとき行き先を気にしない、電車音痴……!!
「仕方ねぇな。山でも登って帰るか」
「今からっ?!それに、登るのはここからじゃないですよっ!」
登山口に行くには、JRじゃ駄目だ。先生の苦手な私鉄に乗り換えないと。
「知ってる。和史と待ち合わせして乗り越した時に
、登ってみたからな」
「……乗り越しって、それ……?!」
寝て乗り越したの、それ?!ある意味すごい乗り越し……!
乗り越したら登山口だったからって、普通は登らないと思うよ、先生……。
「仕方有りません。登るなら、せっかくだから上で天狗焼き食べましょう」
「また食うのかよ」
「お蕎麦と並ぶ名物なんですよ?前に行ったとき見ませんでしたか」
「知るか、そんなもん。大体なんだその天狗焼きってのは……まさか肉か、天狗の肉か!?そんな怪しいもん食える訳ねえだろ!!」
……見たことも無い癖にこき下ろしてた、肉ではない天狗焼きが、先生のお気に召したのは。
この一時間くらい後の話だ。 【その後 終わり】
最初のコメントを投稿しよう!