牧壮介の東京無駄さんぽ・その1 多摩・日本橋

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   * 「頂きます!」 「おー、食え食え」  私は結局、ミニスパイシーココナッツカレーセットを頼んだ。飲み物と、プチロールケーキかフルーツカクテルかどっちかがデザートとして付いて来るという、お得感溢れるセットだ。 「先生、昔からここに来てるんですか?」 「学生の頃から、この辺に用が有る時に時々な。最初に来た頃はこんな小綺麗じゃ無かったけどな」 「へえ……」  先生は、食べ物に興味がない。今日みたいにご飯食べようって言い出すなんて、珍しい。  その先生が、こんな感じの良いお店を知ってるなんて。  学生の頃、誰かが先生を連れて来たのかな。  その頃は、私はまだ小学生だったんだなあ……。 「どうした?辛いか?」 「からくないですっ」  少し辛いけど、辛いかって心配される程辛くない。子供じゃないんだしっ。 「マンゴー入って無さそうだから、これもやるよ。甘いもんで辛いの誤魔化せ」 「……ありがとうございます……」  私が選ばなかったフルーツカクテルを、先生がトレーに乗せてくれる。甘いもんでご機嫌取られた。子供じゃないのに。  先生は私より七年分たくさん、生きてきた思い出がある。そのうち私と重なってるのなんか、まだ二年も無い。  私は先生の、三十五分の二、か。  とっくに食べ終えて水を飲んでる先生を、こそっと見る。  こんなとこでも、いつもの作務衣。いつでもどこでも、変わらない……それは、腹が立つ程に。
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