牧壮介の東京無駄さんぽ・その1 多摩・日本橋

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 電話が鳴った。  骨董品屋さんにあるみたいな黒電話が、ここではまだ現役だ。  先生は「停電でも使えるから効率的なんだよ」って言うけど、留守電も付いてない滅多に鳴らない電話は、効率的なんだろうか。  電話は、ずっと鳴っている。  出なくていいって言われてるけど、こんなに鳴るなら、出た方がいいかな。  ……なんて言って出よう。受話器に手をかけて、ちょっと迷って思い切って取った。 「お待たせしましたっ、牧ですっ!」  ……牧じゃないけど、平取だけど。  お留守番なんだから、代理なんだから、変じゃないよねっ?!  突然女が出た!って、相手の人に不審に思われたらどうしよう……! 『千都香ちゃん?』 「あ。長内さん?」  ほっと力が抜ける。手が汗ばんで、持ってる受話器が滑りそう。 『壮介居る?』 「……え?」  思いも寄らないことを言われて、返事が詰まった。
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