第1章〜ハンバーグ〜

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「雛さん。これでいいかな。お麩もここにたくさんあるし、豆腐もここに。牛乳はひと瓶しかないけれどもこれでいいかな。」 「これで十分よ。ありがとう。」  何故かご飯を作ることになっちゃったけど、もう作ることもできないと思ってたからとても嬉しい。  お母さんが料理上手だったから小さい頃からたくさん教えてもらった。二人が突然いなくなった寂しさを紛らわすようにお母さんの味を再現したくて両親が亡くなった後、たくさん料理をした。何度も何度も作ったけれど、やっぱりお母さんの味には届かなかった。何かが足りない。そう思って作り続けているうちに寂しさも紛れていつのまにか何年も経ってしまった。でも、作っていくうちにあのお母さんのご飯を食べるお父さんの嬉しそうな顔が忘れられなくて私も誰かを喜ばせる料理を作りたいそう思うようになった。  だから、大学も経営を学べるところを探し、バイトを取らないような和食屋さんに頼み込んで勉強させてもらったり社会人になった時自分一人でお店を開いて生きて行くことが出来るようにたくさん勉強をしていた。  まあ、こうなるとは私も思ってなかったけどね。  自分が生死の境を彷徨い、いつ帰れるかもわからない状況に追い込まれるとは思わなかった。両親が亡くなった時にいつ何があるかなんて誰にもわからないと思っていたのに、すっかり忘れてしまって私は事故に巻き込まれるとは思っていなかった。いつ戻れるのかはたまた死んでしまうのかわからない状況だからこそ、この最後になってしまうかもしれない機会を与えてくれたことには感謝したい。だから、私は閻さんのために美味しいものを作る。  気合いを新たにすると、タカさんに調理道具の説明をさらっと聞いた。この中途半端な世界にも調理用具は普通に存在しているようで調理場も普通のお店の調理室といっても過言ではなかった。そして、その不思議な世界の普通の調理場で最初に玉ねぎをみじん切りにしていった。
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