第2章〜カレー〜

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          ○ 「閻庸(えんよう)様。」  足音もなく突然御簾の前で声がする。その声の主はそのまままた音も立てずに部屋の中に入ってきた。その顔は青年というには幼さが残っており、美少年と言う言葉がとても似合う顔立ちのはっきりとした男の子であった。その美少年は部屋の中で座して扇子を仰いでいた男の元へにじり寄ると、正座をして丁寧にお辞儀をした。 「琥珀。どうした。何かあったか。」 「閻庸様。閻庸様が睨んでいた通り、反乱が起こりつつあります。未だ首謀者はわからないのですが、着々と準備が整えられております。」 「やはり、帝には余程注意してもらわねばならぬな。首謀者を早く見つけぬことにはどうにもならんな…。」 「私が至らぬばかりに申し訳ありません。」 「何を言っておる。お前はよくやってくれておる。重ね重ね申し訳ないがもう少し周辺を探ってはくれまいか。」 「承知しました。では早速参りますゆえ。」  琥珀と呼ばれた美少年はサッとまた音もなく去っていった。その後ろ姿を見ながら、男はため息をついた。その男は立ち上がり、御簾を持ち上げ外に出ている月を愛でた。まだ満月というのには早く半月というには丸い。そんな中途半端な月を見ながら、この中途半端な気持ちをどこに持って行ったら良いのか、ため息をつく。 「何もなければ一番良いのにな。皆、仲良くは…出来ないか…。」  男は憂いを帯びた綺麗な澄んだ瞳を曇らせながら、また御簾を上げ部屋の中へと入っていった。            ○
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