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「お前は誰だ。」
「へっ?」
「今日はもう休みなはずだが?何故入れた。」
その綺麗な男は、私を睨みつけて私に問いかけた。
夢なのに失礼な物言いね。
私はプリプリしながら、その男に向かって自分の名前を言おうとした。
「休みって。なんの看板もなかったじゃない。それに私は…。あれ。私の名前。」
喉元まで声が出てきているはずなのに、自分の名前が思い出せず、その場で固まっていると、その男はさっきまでの不機嫌な顔とは違く、不敵な笑みを浮かべながら私の元へにじり寄ってきた。私はその佇まいに恐怖を覚えながら、その場を動けずにいた。
「うーん。お前は、まだ大丈夫のようだな。」
その男は私の顔を顎に手を当てて近距離でまじまじ見ながら、呟くと、すっと手を離した。私はその間、綺麗な顔に見つめられ、その金色の目に吸い込まれるように見つめていたのだが、手を離された瞬間魔法が解けたかのように後ずさりをした。
「あなたこそ、誰なのよ。私はたまたま綺麗な旅館があると思って立ち寄っただけよ。むしろ私の夢に出ておいてその言い方なんなのよ。」
「くっくっくっ。夢か…。」
その男は顎に手を当てて腕組みをしながら笑っていたのだが、突然私の手を掴み、どんどん奥へと連れて行った。
「ちょっと、何するの。やめてよ。」
私は必死に手を振り払おうかとしたが、ビクともしない。振り払おうと思ったその手はとても大きくとても綺麗な手をしていた。爪は目と同じく綺麗な金色をしていていよいよこの世のものでは無いのではないかと心臓がバクバクしてきた。しかし、私の手を跡がつくほどギュッと掴むわけではなく、労わりながら引っ張って行かれるのがわかった。そして、その行動や言動とは相反して優しくて温もりがある手だと思った。
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