ープロローグー

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(えん)様。おかえりなさい。」 「(えん)様。おや、そちらの女性は?」  その二人は私の手を引っ張ってきた男の存在を確認するとスッと立ち上がり、にこやかに挨拶を行なったのだが、私を見るなり怪訝な顔をし、遠目から様子を伺っていた。 「拾い物だ。それよりメイ、ロク、鏡を持て。」 「どういうことでしょうか。その方は一体。」  キッとメイと呼ばれた男を目で制すと有無を言わさず、鏡を持って来させた。 「状況が全く分かっていないようだから、お前には少し辛いかもしれないが、現実を受け入れてもらおう。」  その妖艶でもあり威圧感もあり、はたまた優しさも兼ね備えている不思議な男は私を隣に座らせると私の手を取った。そのままその手を鏡を触らせると今までその男性と私の顔しか写っていなかったのだが、突然グニャッと鏡が動き出し、ドローンを飛ばしたかのような航空写真が見えてきた。そのまま、視点はどんどん下がり街の中を歩く一人の女性にスポットライトが当たった。 「えっ。私?」  名前は思い出せなくても先ほど自分の顔を鏡で見たのでこれが誰だかすぐわかった。私は、なんの変哲も無い道を歩いていた。その街の様子を見ているとどんどん自分の状況を思い出してきた。 「…そうだ、私の名前は、雛。」  自分の名前を思い出して嬉しくなっていると、鏡の中の私は大通りに向かって歩いていた。その後ろから元気な男の子が走って行くのが見えた。 「待ちなさい。車が来るわよ。」  その子のお母さんだろうか、後ろから追いかけてはくるが、ベビーカーを引きながらだったため、男の子がとても俊敏でお母さんは追いつけない。その様子を見て、男の子を捕まえてあげようかなと思っていた矢先、突然大きなトラックが、交差点に侵入してきた。それに気づかない子どもはトラックの方に向かって走って行っていた。私は考えるよりも先に体が動いた。  どうか助かって。  必死に男の子に駆け寄り、男の子を抱えて突き飛ばしたところで、トラックの運転手さんがブレーキをかけた。 ーキキーッ ードンッ 「キャー。」  お母さんはすぐに私とその子に駆け寄った。トラックの運転手さんはすぐにトラックを降りて最初は動揺していたが、救急車を呼んでいた。 「大丈夫ですか。大丈夫ですか。」  お母さんは私の意識を確認しようと私に必死に呼びかけた。その横で、びっくりした男の子が大泣きをしていた。 「えーん。えーん。」  救急車がその後すぐに来たところで映像は終わった。
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