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潜む恐怖
頭が回らない。かといって眠くもない。眠る状況には不向きな場所だ。広い食堂は学生や教職員などが行き交い、話し声がぼんやりと耳に入ってくる。
食欲があるだけマシだな。
進と零士が何か話しているが、俺はまったく会話に参加する気になれなかった。まさか俺がこんな繊細だなんて、思ってもみなかった。少し怖い話を聞いたくらいで眠れなくなるなんて……。
「祥也、祥也ー?」
「え?」
俺の瞳が隣へ向く。おかしなもの見るような顔が2つ。
「聞いてんのか?」
「あ、悪い。なんだっけ?」
「だから、生体情報概論のレポートやってきたか?」
腑抜けた様子の俺がおかしかったようで、零士の口調は喜々を含んでいる。
「ああ……やってる」
「マジで!? ちょっと見せてくれよ!」
進は好機にがっつくように前のめりになる。
「丸写しすんなよ。俺まで減点くらうんだからな」
そう言いながら俺はリュックからクリアファイルを取りだし、隣に座る零士に渡す。
「分かってるって」
ほんと大丈夫かよ……。
俺は不安を覚えながら手元を見る。
まだ手をつけられてないうどんセットがある。ごはんとサラダは完食したが、うどんはほとんど手をつけられてない。伸びきっているし、もう食う気も失せてしまった。
この状態で何日も過ごすのか。
認めるしかない。俺はビビってる。怖くて落ち着かない。
なら、あんなもん捨てちまえばいい。俺は頭に予定を刻んだ。
捨てると決めた。その瞬間、ズキッと胸が絞めつけてくる。まとわりつく恐怖のせいだろう。間違いなくそれは頭の中で蠢いている。だけど、胸の痛みはあの木の棒やハンカチに感じている、恐怖の念じゃないような気がしていた。
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