潜む恐怖

1/17
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ

潜む恐怖

 頭が回らない。かといって眠くもない。眠る状況には不向きな場所だ。広い食堂は学生や教職員などが行き交い、話し声がぼんやりと耳に入ってくる。  食欲があるだけマシだな。  進と零士が何か話しているが、俺はまったく会話に参加する気になれなかった。まさか俺がこんな繊細だなんて、思ってもみなかった。少し怖い話を聞いたくらいで眠れなくなるなんて……。 「祥也、祥也ー?」 「え?」  俺の瞳が隣へ向く。おかしなもの見るような顔が2つ。 「聞いてんのか?」 「あ、悪い。なんだっけ?」 「だから、生体情報概論のレポートやってきたか?」  腑抜けた様子の俺がおかしかったようで、零士の口調は喜々を含んでいる。 「ああ……やってる」 「マジで!? ちょっと見せてくれよ!」  進は好機にがっつくように前のめりになる。 「丸写しすんなよ。俺まで減点くらうんだからな」  そう言いながら俺はリュックからクリアファイルを取りだし、隣に座る零士に渡す。 「分かってるって」  ほんと大丈夫かよ……。  俺は不安を覚えながら手元を見る。  まだ手をつけられてないうどんセットがある。ごはんとサラダは完食したが、うどんはほとんど手をつけられてない。伸びきっているし、もう食う気も失せてしまった。  この状態で何日も過ごすのか。  認めるしかない。俺はビビってる。怖くて落ち着かない。  なら、あんなもん捨てちまえばいい。俺は頭に予定を刻んだ。  捨てると決めた。その瞬間、ズキッと胸が絞めつけてくる。まとわりつく恐怖のせいだろう。間違いなくそれは頭の中で(うごめ)いている。だけど、胸の痛みはあの木の棒やハンカチに感じている、恐怖の念じゃないような気がしていた。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!