第1話

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 瀧と言った男は、かなりのイケメンだ。これは確かにホールが欲しがるだろう……ホールで店長が昨日、そうぼやいていたのを聞いた。 「今日からお前の教育係!」 「よろしくお願いします」  働き始めて3年、俺もついに教育係を任された。瀧が初めての俺の教え子になる。そう思ったらなんだか嬉しくてワクワクした。  平日のお昼前はかなりお店が空いているし、簡単に勤務表のことや休憩時間などのことをざっと説明して、ホールからのオーダーを待つ。 「……佐久間さんは何年やってるんですか?」  なかなか来ないオーダーを待っていたら、瀧にそう質問された。にこっと笑う瀧のイケメンオーラが眩しい…… 「3年目だよ」 「長いんですね。大学生ですか?」 「ううん、俺ここの社員なんだ!」 「そうなんですか」  まだ瀧と話して少ししか経っていないけど、感じの良いやつだ。先輩として、とことん可愛がってあげたい。 「瀧は大学生?」 「はい、この近くの専門学校に通ってます」 「え! あの料理学校?」 「そうですよ」 「すげー! だからキッチンのバイト選んだんだ!」  どうやら瀧は、調理師の資格を取るまでの修行みたいなものを、このカフェで積みたいらしい。瀧みたいな人が調理師になったら、死ぬほどモテそうだ……  ならなくてもモテるだろうけど。  その後は、まずはドリンクの作り方から教えた。メロンソーダ、レモンスカッシュ、ココア、などなど。他にもいっぱいある。  瀧は物覚えがかなり早く、無駄な動きもないし手際も良い。  新人は大体洗い場を任されるが、これは……早くからドリンクも淹れられるようになるかもしれない。  瀧を見てそう思ったのが1日目。  そして、2日目になると……ドリンクはもう完璧に淹れられるようになっていた。  俺は社員だしほぼ毎日出勤だから、教え子の成長をそばで見られてとても嬉しい。  店長や主任も、瀧の仕事の早さに驚くと同時に、成長した時のことを考えてかなり胸を膨らませていた。  誰もが、瀧に期待をしている。愛想も良く顔もカッコイイから、キッチンスタッフ、ホールスタッフの女性陣からもかなりの人気もあった。  初めての教え子が瀧でよかった。そんなことを思い始めていた。
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