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毎日同じことをなんとなく繰り返していると、月日が経つのがとても早く感じる。瀧が入ってきて、もう一ヶ月が経とうとしていた。
瀧はドリンクだけじゃなく、フードを作るのも完璧にこなすようになっていた。あり得ない成長速度だ。
「瀧くーん」
平日の夕方のこと。デシャップカウンターから、女の子がキッチンへ顔を覗かせて笑顔で瀧に手を振る。
デシャップカウンターとは、出来上がったドリンク・フードなどを置いたり、ホールスタッフが下げたお皿などを置くカウンター。
デシャップと呼ばれる役割のホールスタッフが伝票を整理して料理を受け取る場所でもあり、伝票をキッチンに伝えてくれる場所でもある。
来ちゃったと笑って言う女の子は、とてつもない美人だった。
彼女か誰かかななんて思って、そんな美人さんにぺこりと頭を下げる。
恋バナとかしないから知らなかったけど、こんなイケメンを誰かが放っておく訳がないよな。
「もうすぐ上がりだから、待っててね」
「もちろん!」
またまたイケメンな笑顔を浮かべてそう優しく言う瀧を見て、パンケーキを作る手が思わず止まってしまった。あんな顔で笑われたら、女の子はイチコロだろう。
席へ戻っていくその女の子を見て、瀧にすかさず「彼女?」と茶化すように聞いてみる。
だが、瀧の口から出た言葉はあまりにも意外な言葉だった。
「セフレですよ」
「へー……え!? うわ!!」
パンケーキの上に描いていた生クリームが驚きで崩れてしまった。
慌ててなんとか修正したが……今セフレって。
「まじ?」
「……はは、そんなに驚きます?」
瀧は笑っているけど、予想外過ぎた。とてもセフレがいたりするような人には見えないから。
「あー、すみません、佐久間さんは童貞でしたね」
「は!?」
からかって笑うようにそう言われて、思わず顔に熱が集まった。デシャップを見るとホールスタッフもいないようだったのでまずは一安心だが、どうしてそのことを……
「な、何言ってんだよ!」
「はは」
「は、はは……大体そんなこと何でわかるんだよ」
慌てて否定をしたが、顔が熱いしドキドキと胸が鳴っている。瀧にそれが伝わってしまわないように平然を装って、背を向けた。
そしたら俺のすぐ背後に瀧の気配がフッとして、耳元で言われた言葉に体が硬直。
「雰囲気?」
くす、と静かに笑う瀧の鼻息が、耳元にあたる。振り返ったら見下したように笑われて、顔がどんどん熱くなっていった。
「先輩からかうんじゃねーよ!!」
それからだ、瀧が俺に本性を見せるようになったのは。
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