第1話

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 そして、ある日の夜。 「今日みんなで一緒にご飯行きませんか?」  みんなで店を出たら、一緒にラストまで入っていた皆川さんにそう言われた。  みんなでって瀧もいる。瀧もだろうか……そりゃそうか。 「俺は……」  瀧とご飯とかすごく嫌だ。猫を被っているところを見ないといけないと思ったら、腹が立って仕方なくなる。 「サクちゃん行くなら私も行こっかな〜、えへへ」  そう言ってズイッと迫ってきたのは、ホールスタッフの西井。俺と同時期に入った女の子で、俺と同い年。  大学に通いながらアルバイトとしてここで働いている子だ。 「えー……」 「えーってなに!?」  俺が行くなら行くなんて言われると断りにくすぎる。 「瀧さんも一緒に行きましょうよ!」 「みんなで!」  可愛い女子二人にズイズイ迫られてそう言われて、首を縦に振ることしかできなかった。  ちらりと瀧を見てみると瀧は乗り気のように笑っていて、俺に生意気な口を聞くような人には見えない。 「今日も疲れたね!」 「ねー! わりと混んだね」  ……楽しそうに俺の隣で話す女子二人を横目に、こういうのも悪くないかと思った。俺も何も気にせずに楽しんだ方がいいか。 「佐久間さんは、ふつうに女絡みあるのに彼女いないんですね」  ボソッと瀧にそう言われて、何も言わずに瀧を睨む。童貞だとか、西井や皆川さんの前で言ったら今度こそぶん殴ってやる。 「意外。女の子とかすごい苦手そうなのに結構話すし」 「お前さ……俺のことなんだと思ってんの?」  こう見えて学生の頃は女子に告白されたりということがあった。なのに彼女ができたことがないのは、俺が恋というものをしたことがないから。  瀧のようにセフレを作ったりと、人の心を弄ぶような遊び人は大嫌いだ。 「西井さん、佐久間さんのこと好きなんですね」 「は?」 「俺のこと見る目と佐久間さん見る目が違うし」 「いや、それってお前のことが……」 「あと、処女だな」  西井と皆川さんに聞こえないくらいの声の小ささだけれど、瀧の肩を思いっきり叩いた。  だからどうしてそういうことを言うのか、こいつは。  ビッチとか処女とか、そんなの出会って間もないこいつにわかるわけがない。 「サクちゃんは何食べたい!?」  瀧を睨みつけていたら、西井がズイッと寄ってきてどきりとした。瀧の言葉を鵜呑みにする気は全然ない。  しかし、俺のこと好きなのかなという考えが頭を過って、視線をそらす。 「あー、うん、何でも」 「何でもが一番困るよ〜。瀧さんは何食べたいですか?」 「結構お腹空いてるんで、がっつりがいいですね」 「私もー!!」  にこっと笑う瀧の姿は、さっき俺と話していた時の瀧の雰囲気とは全然違う。カッコイイから余計に腹が立つ。  結局は女子二人が主に意見を出し合って、カフェの近くの居酒屋に食べに行くことになった。皆川さんと居酒屋に行ったなんて主任に知れたら、とても妬まれそうだ。  お店に入って、女子二人が張り切って色々と注文をしてくれる。俺は明日も仕事があるので、お酒は控えていた。
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