第1話

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 俺の家とは反対方向をずっと歩いていたら、皆川さんの住んでいるというアパートに着いた。  なにもそういうことになるとは決まっていないのだから、意識しないようにしたい。  と思っているが、玄関まで入って心臓が口から出そうになった。ふわっと皆川さんのいい匂いがして、意識しないようにすればするほどしてしまう。  家の中はピンクとか白とかばかりで、女の子、という部屋だ。適当に座ってくださいと言われ、緊張しながらも机の前に腰を下ろす。  すると皆川さんもゆっくりと俺の隣に腰を下ろして来た。 「そ、それで? えっと……」  しんとした静かな空気が恥ずかしいので、用があるなら早く済ませたい。 「ふふ、佐久間さん、さっきから緊張してますか?」 「え!? そりゃするって!」 「もー、とぼけないで下さいよ」  皆川さんがクスクス笑うから、俺もあははと笑ったら、皆川さんの手がゆっくりと俺の首に巻きついてくる。  ズイッと皆川さんの顔が近づいてきて、思わず皆川さんの肩をがっしり掴んだ。 「ま、待って待って!」 「え? わかっててついて来たんじゃないんですか?」  キョトンとした顔で皆川さんは上の服をガバッと脱いで、キャミソール姿になる。  そしてどこから取り出したのかわからないコンドームを俺に見せて、俺の太ももを触った。 「佐久間さんも好きでしょ?」 「ちょ、ま……」  瀧の言葉がちらつく。違う。そんなんじゃない。俺は瀧みたいにはならない。 「待って!!」  ぐいっと皆川さんの肩を再び掴んで、押しのける。勢いよく立ち上がって、自分の上着を皆川さんの体に被せた。 「皆川さん、こういうことよくするのか?」 「……しますけど……気持ちいいですから」  気持ちいいですから、と言った皆川さんの声が頭の中で鳴り響く。皆川さんからそんな言葉、聞きたくなかった。 「自分のこと、もっと大事にしないとダメだろ!」 「えー? なにそれ……ドラマみたい」  気持ちいいのかは、したことがないから知らないけど……こんなに可愛い子が、こんなに簡単に男を家に上がらせたら危ない。それについていった俺も最低な男だけれど。 「俺がすげー酷い男だったら、そんなゴムつけてくれないやつもいる。こんなことしてたら……いつかいい人見つけた時にきっと後悔するよ」  なんて、カッコつけたことを言ったが……俺は彼女もできたこともないし童貞である。  何も言わずに俯く皆川さんの頭をポンっと軽く叩いて、玄関へ向かう。 「上着はまた今度返してくれたらいいから」 「……はじめて……」  ぽつりと皆川さんの声が聞こえて、振り返る。皆川さんはぼうっとした表情で俺を見て、俺の上着を握りしめて言った。 「初めてそんな風に言ってもらえた……」  ぼうっとした表情で俺を見てそう呟く皆川さん。  皆川さんは初めからそうだった訳じゃない。今まで皆川さんにどんなことがあったのかはわからないが……きっと皆川さんをそうさせたのは、周りなのだ。 「……今日はゆっくり休んで、またバイト頑張ろうよ」 「……はい……ありがとうございます……」  だとしたら瀧があんななのも、何か理由があるのかな。皆川さんの家の戸を静かに閉めて、肌寒い外を歩いて、考えていた。  皆川さん、胸大きかったな……
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