【226事件と昭和の義賊】

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前島立夫は 埼玉県郊外の練兵場の兵舎で徴兵検査を受けていた 当時は 20歳になれば男子は誰もが徴兵検査を受けることが義務付けられてましたが立夫は志願だったので19歳でした 検査を待つ列の中で背の高さは抜きんでていた おお!君はなかなかイイ身体しておる 身長は5尺8寸か・・・立派なものだ 視力も問題ない!甲種合格だ! 軍服を着た 検査官が立夫を一目見て一発で決めてくれた 走るようにして帰り 母親に告げたおかん! 俺 合格した!秋には 歩兵連隊に入隊することになった! ほんと!?良かったわね! 頑張るのよ! うん!俺、幹部候補にきっとなってさ 少尉か中尉さんになったる! 手当をもらって おかんを楽させてやるからな! 立夫は早くに父を亡くし 母子家庭で暮らしは楽ではなかった  当時は不況で 仕事なんてロクになく立夫は陸軍士官学校に入りたかった士官学校に入れば 陸軍大学への道も開かれており海軍兵学校より人気がありました  若い女性の熱い眼差しや憧れが 士官の生徒に集まっていました なので 立夫から見たら 凛々しい制服もさることながら女にモテたいという偽らざる気持ちもあったのです しかし  中学校から士官学校にいくには相応の経済力が必要で 尋常小学校出て 働くしかなかったので すしかしいろいろ調べていたら  軍隊に二等兵として入隊してから努力次第で士官になれるとの事を聞き 元気百倍・・志願兵となったのです  9月に入り明治神宮近くの関東方面隊司令部のある連隊に入隊した直属の上官となる、 細川小隊長の前に立った 直立不動し敬礼・・ 前島初年兵であります!本日着任の挨拶に参りました! おお 前島君か 君の経歴を見てたところだ 立派な身体だなぁ・・・隊の中でも君が図抜けておるよ・・ 徴兵検査の時と同じく誉められた ところで 君 軍人勅諭を徴兵検査の時 スラスラと言ったそうだな はい! 大したもんだ 3000字近い文章なんて なかなか憶えるまで大変なんだぜ僕なんか暗唱できるまで 何回殴られたことか・・ そうなんですか!士官学校出られた隊長殿は自分には憧れです!自分も勉学にいそしみ訓練に励みます そうか 僕は 君を幹部候補として鍛えて行くよまあ頑張りたまえ・・ ・はい!頑張ります!ありがとうございます! 額が広く聡明そうな 顔立ちだけど どこかふてぶてしい 唇の歪み・・ (こいつとは 相性が合う) 隊長はそう思ったのです ところで 君は女ともう済んだのかい? ニッコリした顔に立夫はナニを言うのかとビックリした様子 え!?女でありますか? そうだ もうヤったのかと聞いておるんだ(笑) いえ、恥ずかしながら そのぅ・・まだであります(笑) 隊長が目を細め相好を崩してるのです 郷里も同じ埼玉ということもあり 一発で2人は和んだのです  ーーーーーーーーーーーーーーーー 【知り合いの女を紹介するから 童貞を捨てろ】となって隊長に促されるまま 遊郭の門をくぐっていました  その夜 立夫は 見事に立たせて一皮むけた 男になったのです (笑) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 1910年に韓国を併合し 第一次世界大戦の戦勝国の1国となったものの1929年に世界恐慌がおき、日本も影響を受けて不景気だった 明治新政府以来 富国強兵の国策でどんどん行け行けだったけど ここにきて困り果てて政府は中国大陸への進出によって雇用や経済の回復を計ろうとしましたが 思うようにいなかなかったのです 疲弊した農村では娘を売る身売りや欠食児童が急増して社会問題化・・生活できなくなり 内地では もうダメと見切り 満州開拓団として大陸に次々と渡って行ったのもその頃です ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 年が明けて1936年正月立夫は 少尉から中尉に昇進していた 細川隊長の自邸に招かれ 祝賀の馳走に あずかっていた 【前島さん よくいらしてくれました 主人がいつもお世話になってます】23才の着物服の妻が 畳に三つ指をついて迎えてくれた  アップに結えた日本髪と白いうなじとが映えて生々しい・・ 【いやあ・・奥様 いつ見てもお美しい・ 隊長が羨ましいです】 【あはは おいおい 口が上手な奴だ・・】 【ホントですよ 自分は感じたことを言っています】 細川は 羽織はかまのいでたちでした・・  (明鏡止水)と大書した掛け軸を背にしているといつもの隊長が一段と凛々しく 気品すら感じた 【前島、聞いてくれ 今の軍は政治家に牛耳られ その政治家は財閥に機嫌どりしているありさまだ 僕は天皇を総帥とする機関国家に創り上げたいと思っている つまりだ 政治家だの財閥だの 薄汚いやつは天誅して大掃除しなければならんと思ってるんだ・・】 【君なら判ってくれるだろ?】 【はい! 隊長がそう思うことに なんの異論がありましょう 俺はどこまでもついていきますよ 天皇を頂点とする、【菊と刀】の大和の国創りという大義と隊長の考えには 一点の曇りもない素晴らしいものと思っています!】 【そうか・・・僕はいい友をもったもんだ】立夫は2等兵 前に居るのは中尉 階級は大差・・換言したら お殿様と 草履取り天地程の差があるのに2人だけの時は対等に扱ってくれたのです 隊長は 真っ直ぐで潔癖な方です尊敬申し上げています 【いやいやそんなものは見せかけだけよ 僕はな 貴様だけにホントの事言うが 妻以外にコレが2人いるんだ】 小指を立ててニタっとするんです 【えーっそれはホントですか?】 【ああ・・間違いないそれぞれ 子供を産ませてるんだ】 【へーーーっこ、子供まで!?】 【大きな声出すなよ、 家内に聴こえるじゃないか!】 【失礼しました!】 【世の中はな・・いろんな人間がいるんだよ 真っ直ぐとか 潔癖なんて見えても それは見かけだけだ・・】 【・・・・・】 【僕は ありていに言うと 世の中はなんだかんだといっても 所詮『色と欲』と思ってる男だ・・士官学校に入った動機も女にモテたかっただけの話よ(笑) 【た、隊長・・なんか自分の思いを言われてるようです!汗】 【だろう?貴様もそういうタチの悪い男と僕は見抜いたんだ・・】 【あはは タチの悪い男って・・】 【まあ 天皇陛下は奉るのは結構だか゛世の実相を見てみろ 強欲な金持ちどもは 己の私腹を肥やすのを至福としている 貧しいものはその日の3食にも事欠くありさまだ ますます貧富の差は開き 理不尽がまかり通り スジの通らぬ世の中よ】 【・・・・】 【僕はな 今の世の中が腐っていると思っている 財閥を解体し 富を分け与えてやるべきと考えているんだ 俺も綺麗事を言える人間ではないし 女も作っている男だ けどな 間違ったものには 義憤を覚えるのが男ってもんだろ?】 【隊長! 全くその通りです 自分も同じことを考えていました!・・】【そうか!僕には 秘めた野望があるから それをついでに言ってやろう・・】 ーーーーーーーーーーーーーーー 細川中尉は やおらに立ち 床の間の軍刀を手に取り 真剣の白刃を鞘から抜いたのです そして 頭上で大上段に構え 一文字に振り下ろした・・ ・居合抜きの気息を整えた後・・座りなおして 立夫をまっすぐ見たそして 口を開いたのですそれは 驚くべきことでした
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