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その後、打ち合わせ自体はスムーズに進行し、予定通り小一時間で終わった。
当日、インタビューで聞かれる内容や、どのように接客風景を撮影するのかといったことが説明され、カメラの入る動線なども確認された。
話を聞く感じだと、特に難しいことは要求されなさそうで、いつも通り接客して、少しリポーターと話せばいいらしかったので、郁は安心していた。
「‥‥では、当日はどうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
店の入り口で、テレビスタッフの三人を見送る。
津川は、南央斗の方を見ると、「じゃあまたな」と、親し気な様子で手を振った。南央斗も笑顔でそれに応えている。
「‥‥こんな形で大学の同級生と再会するなんて、すごい偶然ですね」
三人が去った後、郁は南央斗にそう話しかけてみた。
南央斗は、「そうだねー、俺もびっくりしたよ」と笑っている。
「卒業式の時にちょっと会って以来だから――‥‥半年ちょいぶり?時間経つのって早いね」
南央斗はたしか、大学卒業後に入社予定だった会社が倒産して、その後キャンディホリックに来たと言っていた。
そう考えると、卒業時は色々複雑な思いだったのかもしれない。
「‥‥でも、友人がいる中で接客や取材っていうのも、逆にやりづらいんじゃないか?」
「あ――‥‥まぁでも、友人っていうほど親しかった訳でもないんで、大丈夫っすよ」
「そうか。それならいいが」
蓮太郎と南央斗の会話を聞きつつ、郁は少し意外に思っていた。
「友人っていうほどでもない」など、あまり南央斗が言いそうにない言葉だったからだ。
それに、あの津川というAD。
表向きは南央斗を持ち上げているようだったが、どこか茶化しているというか、どことなく嫌な感じがしたのは気のせいだろうか。
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