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動揺した拍子に、静かに三人の後ろを歩いていた郁は、道路の石に足をとられてしまった。
「わっ‥‥‥‥」
「‥‥?‥‥あっ、さっきの‥‥」
転びかけて、思わず出てしまった声に、前を歩いていた三人が一斉に振り返る。
津川は、郁を見るなり、小さく「やっべ」と呟き、取り繕うような笑顔を郁に向けてきた。
「あ――、さっきはお疲れ様でした。‥‥何かありましたか?」
「あ‥‥えっと、これ、店に落としていらっしゃったので‥‥」
そう言って、慌てて名刺入れを差し出す。
津川はすぐに自分のものだと気付いたのだろう、「すみません、わざわざありがとうございます」と、郁に近付いてきた。
そして、名刺入れを受け取りざま、郁にだけ聞こえるような小さな声で、ぼそりと囁いてきた。
「‥‥さっきの話、聞いてました?」
「え‥‥‥‥」
「南央斗のことですけど、あいつには気を付けた方がいいっすよ。一見さわやかっぽいですけど、裏じゃ何やってるかわかんないし。あんま深く関わんない方がいいっすよ」
津川は、それだけ一方的に言い切ると、「じゃ、本当にありがとうございましたー!」と、明るい声で挨拶をして、待っていた二人のもとへと戻っていった。
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