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その後、一度店に戻ってから、郁は南央斗とともに、南央斗の姉の家に向かった。
南央斗の姉の家の最寄り駅までは、電車で10分ほどだった。平日の昼間、住宅街には人通りもまばらだ。
「取材の日、明後日だって言ってたよね。インタビューでどう答えるかとかも考えとかないとなー」
「そ、そうですね‥‥」
南央斗は、会話が途切れないように適度に話を振ってくれているが、郁は先ほど津川から聞いたことが気になって、どうにも上の空になってしまっていた。
すると南央斗は、不思議そうに郁の顔を覗き込み、「‥‥郁ちゃん?大丈夫?」と、心配そうに尋ねてきた。
「何か気になることでもある?」
「あっ、いえ!お姉さんに会うの、緊張するな~って‥‥あはははは‥‥」
「そっかぁ、初めての人に会うのって緊張するよね。まぁでも、うちの姉ちゃんも気さくな人だから、緊張しなくて大丈夫だよ」
そう言って、郁を安心させるように、にっこりと笑ってくれる南央斗は、郁の知る南央斗そのものだった。
まさか、裏で法に触れるようなことをする人には思えない。
そこで郁は、ふと思った。
自分は、津川の言うことを真に受けて、南央斗に疑いの目を向けてしまっている。
でも、そもそも津川は、信用できる人間なのだろうか?
(‥‥南央斗さんの陰口言ったりとか、なんか嫌な感じだったし‥‥あの人の言葉を全部信じるのも、違う気がする)
今日会ったばかりの津川と、この数か月一緒に働いて、何度も郁を助けてくれている南央斗。
どちらを信じたいかといえば、答えは明白だ。
―――さっき聞いたことはもう忘れて、自分の知る南央斗を信じよう。
そう決意しながら、郁は南央斗の後をついて歩いていった。
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