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住宅街から少し歩いたところにある土手に、郁は南央斗と並んで腰をおろした。
近くの自販機で買ってきてくれた飲み物を南央斗から手渡され、お礼を言って受け取る。
南央斗は、缶コーヒーの蓋を開けると、郁に静かに問いかけてきた。
「‥‥郁ちゃんはさー、学生の頃とか、何になりたかった?将来の夢的な」
「あ‥‥私は、お菓子屋さんでしたね。高校生くらいからは、パティシエを目指していて」
結局、母が亡くなって、専門学校に通い続ける経済的余裕もなく、志半ばで諦めてしまったけれど。
そう話すと、南央斗は、「そっか。‥‥昔からの夢をそのまま叶えられる人なんて、なかなかいないよね」と、どこか遠い目をして呟いた。
「‥‥俺はね、スポーツキャスターになりたかったんだ。テレビで見るでしょ?サッカーとかバスケとか、スポーツ中継を得意にしてるアナウンサー。あれに憧れてて」
「そうなんですか‥‥なんか、言われてみれば似合いますね」
「そう?まぁ、昔からスポーツ好きだったし、目立つことも好きだったからさ。テレビとか出てみたいなーって、漠然と思ってて。高校三年の時かな、バスケの試合見に行った時にさ、スポーツ中継してるアナウンサーを間近で見る機会があって、『これになりたい!』って思ったんだ」
南央斗はその夢を叶えるため、大学入学後はアナウンススクールにも通っていたらしい。
そして、就職活動が始まった時には、地方も含め、あらゆるテレビ局の選考にエントリーした。
いくつかのキー局は、書類選考で落とされたり、二次試験で落とされたり。
けれど、テレビ朝顔だけは、うまく選考を進めて、最終面接までこぎつけた。
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