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―――しかしその後、資料の持ち主である友人に封筒を渡そうと、大学に向かっていると、キャンパスの少し手前で、男数人に取り囲まれた。
男たちは私服警官で、荷物の中身を見せろという。
特にやましいことはなかったので、背負っていたリュックの中身を見せると、警官たちはすぐに茶封筒に手を伸ばした。
まるであらかじめわかっていたかのように、茶封筒の封を開けると、警官たちは入っていた論文コピーの間に挟まっていた何かを、南央斗に突き付けた。
「これは何だ」と強く問われながら見せられたそれは、ジッパーのような袋に入れられた、白い粉だった。
「‥‥覚せい剤だったんだって。勿論、俺は何も知らないし、友達に頼まれただけだって、事実をそのまんま喋ったんだけど、全く信じてもらえなかった」
「そんな‥‥何でですか!?」
「大学で使ってた俺のロッカーからも、覚せい剤の入った袋が出てきたからだよ。‥‥事前に警察に、匿名の電話がいってたんだ。俺が大学構内で覚せい剤を売りさばいてるって」
南央斗はそのまま警察に連行され、何日も家に帰れなかった。
最終面接の日を署内で迎えた時には、本気で絶望したという。
「あんなに泣いたの、生まれて初めてかなってくらい泣いたよ。刑事さんたちも引くくらいの勢いでさ」と、南央斗は笑うけれど、郁は全く笑えずに、南央斗を見つめるしか出来なかった。
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