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「‥‥10日くらい経ってからかな。俺に封筒渡してきたそいつが、やっと逮捕されたんだ。クスリの売人が何人か一斉に捕まったらしくて、その売買名簿にそいつの名前も入ってて。警察で、俺に封筒を渡したことも、俺のロッカーにクスリを入れたことも自白したから、やっと俺は釈放された」
―――けれど、警察から出た時には、全てが変わってしまっていた。
テレビ朝顔の選考は当然終わっており、すでに内定者が決まっていた。どんな事情であれ、再面接は認められないと、人事担当者からは気の毒そうに言われた。
他の地方局の選考はまだ残っていたが、精神的に落ち込んでしまった南央斗は、面接でも思うように喋れず、全て不採用になってしまった。
「大学でも、もう噂がすげぇ広まっててさ。人って不思議だよね、冤罪だったってわかっても、心のどっかでまだ俺の事疑ってるんだ。それまで友達も多い方だったと思うけど、皆俺のこと避けるようになって、ホント一気に転落って感じ」
郁は、津川との会話を思い出した。
外見が良く、女性からもモテていた南央斗に対し、嫉妬をあらわにしていた津川。
きっと、南央斗に嫉妬する人は他にもいて、そういう人たちにとって、南央斗の不幸はむしろ愉快なものだったのだろう。
「なんか、そういうの見てたら、人間不信になっちゃってね。‥‥俺に封筒渡してきた奴もさ、同じテレビ局志望で、アナウンススクールでも一緒だったんだ。でも、どの局も軒並み書類で落とされて、落ち込んでる時にクスリに手出したらしくて。俺がテレビ朝顔の最終面接に残ったって、噂で聞いて、面白くなかったからはめようとしたんだってさ。‥‥結構仲良いと思ってたんだけどね」
友人だと思っていた人間に酷い裏切りを受け、南央斗はしばらく、自暴自棄に日々を過ごしていた。
一年留年して再度就活し直すという手もあったが、もう大学にいることすら嫌になっていた。
それで、就職が決まらないまま卒業し、しばらくはアルバイトを転々としていたという。
蓮太郎に出会い、キャンディホリックに誘われたのは、そんな時だった。
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