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「うちの実家ね、歌舞伎町の近くの花屋なんだよ。夜遅くまで店開けてて、キャバクラとかホストクラブの関係者がよく買いに来るんだ。他のバイトの合間に手伝ってたんだけど、蓮さんがたまたま店に来て、俺のこと誘ってくれてさ」
『君ならうちの店でスターになれる!』と、胡散臭い口説き文句でスカウトされ、半信半疑でキャンディホリックに足を踏み入れた。
最初は、よくわからないコンセプトの店だなと思っていたが、しばらく接客するうちに、人の話を聞いたり、相談にのったりすることが楽しいと気付いた。
瑞希のスバルタ研修はきつかったが、瑞希や悠、蓮太郎や楓は、何の偏見も妬みも挟まず、フラットに南央斗に接してくれたので、徐々にこの店で働くことが好きになっていったという。
「‥‥この前言ったみたいに、ずっと『お兄ちゃん』ってやつに憧れてたしさ。接客もあんまりやったことなかったけど、結構向いてるのかもって思えた。今はホントに、あの店で働くのが楽しい。‥‥でもさ」
そこで、南央斗はしばらく、言葉を探すように沈黙して、うつむいた。
「‥‥やっぱり、思うんだよね。テレビ朝顔の最終面接に行けてたら、どうなってたかなって。勿論、面接で落とされてたかもしれないけどさ。‥‥そういう後悔とか、周りから疑われた悔しさとか、色々思い出すから、大学の時の同級生にはまじで会いたくないんだよなー」
そう言って、南央斗は苦笑した。
今日、津川に会った時の、南央斗の若干強張った顔が思い出される。
津川もきっと、南央斗が警察に捕まった後、態度が変わったうちの一人だったのだろう。南央斗のことをまだ疑っていたし、表向きは友人の顔をしているけれど、腹の中では意地悪な気持ちでいるのが明らかだった。
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