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「‥‥取材、大丈夫ですか?今からでも、瑞希さんか悠さんに代わってもらった方が‥‥」
あまりにも心配で、郁は思わず、南央斗にそう言っていた。
瑞希や悠も、あまり顔出しはしたくないだろうが、南央斗の抱える事情を知れば話は別だろう。
けれど南央斗は、すぐに首を横に振った。
「一度やるって言って、顔合わせまでしたのに、逃げ出すようなことしたくないし‥‥今回は頑張るよ。郁ちゃんも一緒だしね」
「そうですか‥‥?」
うん、と深く頷く南央斗は、やっぱりいつも通りに笑顔だった。
けれど、その笑顔は、やるせなさや悲しみを全部自分で飲み込んで、抑え込んだ上での笑顔のような気がして、とても切ない。
「‥‥南央斗さん、無理に笑わなくてもいいんですよ」
郁がそう言うと、南央斗は、少し不思議そうに首をかしげて、郁を見つめ返してきた。
「南央斗さんの笑顔は好きですけど‥‥悲しい時とか悔しい時とかは、泣いてもいいし、怒ってもいいんじゃないでしょうか。少なくとも、今は私しかここにいないですし」
郁の言葉に、南央斗は「ありがと」と微笑んで、「うーん、でも、泣いたり怒ったりしても、結果って変わらないからなぁ」と天を仰いだ。
「‥‥なんか、警察から出た後って、感情が消えちゃったみたいな感じだったんだよね。もう涙も出ないし、俺をはめた奴への怒りも沸いてこなくてさ」
「そんな‥‥‥‥」
自分だったら、就活も人生設計もぐちゃぐちゃにした人間のことを恨みに恨むだろうと、郁は思った。
南央斗は優しいから、自分の中で怒りも悲しみも自己完結させて、どうにか前を向こうと、頑張ってきたのかもしれない。
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